14.悪役令嬢は読み解きたい!
長い間、それこそ百数十年以上は経過しているというのにその本の保存状態は良好であった。丁寧とも言えない不格好な革の装丁であるし、古びたインクと紙の香りもする。けれども確りと本としての体裁が保たれたそれは確かに本でしかない。
幾重にも魔法が掛けられたと言われるその本は今となってはこの国の古文書であり、初代のシルベスタ王が書いたと言われる本であり、解析不能の言語が端から端まで連なっている。
その本を手にとった俺は正しく息を飲み込んだ。損傷の恐れが無い事、持ち出し禁止である事、写しは問題ない事、その他様々な注意点を言い渡されたが、俺はその本の表紙にしか目がいかず、表情を抑え込むのに必死であったのだ。
そこはお嬢様生活を十数年も続けていた我が身である。表情筋も正しく動かせずに何がゲイルディアのご令嬢か。
古文書を受け取り、監禁よろしく個室を準備されていたので俺とアマリナは部屋へと押し込まれた訳であるが。しかしながら、古文書が問題である。
幾重にも守護魔法が掛けられ、保存状態も最高であり、恐らく今から数えても数十年はこの状態が維持されるであろう古文書である。実に素晴らしい魔法である、俺も少しは知りたい物だけれど、生憎魔法が見える瞳など所持していないし、見えたとしてもさっぱりわからないだろう。シャリィ先生ならわかるかもしれないが、今隣にいるのはアマリナである。アマリナも魔法式から魔法を使う事はできるけれど、実用的な物ばかりである。火を灯したりする程度だろうか。
「アマリナ、紅茶を淹れてくれるかしら」
「かしこまりました」
紅茶を淹れてくれているアマリナの後ろ姿を楽しみながら渡されたこの国に伝わる古文書へと視線を落とす。この国の文字ではない。更に言えば俺よりも頭の出来の良い学者達すらも知らぬ言語。どの翻訳された物を読んでもどこかちぐはぐで、どれも解読方法が違うのか解釈内容が一部を除いて全く違う。
パラパラとページを捲り全体を把握する。最初から最後まで流してから、改めて表紙を見る。
そこには堂々とタイトルが書かれている。この本の使用用途が書かれ、詳しく読んでいない内容もそれに準じた物になっている事だろう。
しかし、古文書である。そう、古文書なのだ。
俺は表紙に書かれた文字を撫でて、小さく息を吐き出した。
「……日記、か」
「お嬢様?」
「いえ、なんでもありませんわ」
ありがとう、と出された紅茶に感謝しながら改めて日本語で日記と書かれた古文書を見る。初代シルベスタ王もまさか自分の日記が古文書扱いされるとは思わなかっただろう。日本語という難解な言語も貴重という価値に拍車を掛けたのかもしれない。
何にしろ、十数年も見なかった言語であるけれど俺の中にはソレが確りと根付いており問題なく端から端まで読むことができる。できてしまう。この内容を公表するつもりなどないけれど、俺の中の推測が正しいかどうかの判断はできるだろう。
始まりはこの世界にやってきて数ヶ月経過した頃。日記、という体であるが日本語で書かれているという事はこの筆者は元の世界を好んでいたのかもしれない。その本意を知る事などもう出来ないし、日記の内容を読まれたくないが故に異世界言語を用いたのかもしれない。
日記ではあるけれど、コレを日記と呼んでしまうのは少し勿体無い。誇張はあるかもしれないけれど、正しくこれは冒険譚なのだ。いつの間にか勇者と呼ばれる少年が青年となり、勇者から王に至るまで、そして王として死ぬまでの話。
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