17.悪役令嬢は疑いたい!
ハッキリと、明確にしておかなければいけない事がある。
俺は弟に――アレクに嫌われている。俺が何かをした訳ではない。思春期を迎えたアレクが俺から距離を取った事で疎遠になった、と言ってもそれなりに顔は合わせていたけれど俺としっかりと喋る事なんて思い出しても数えるぐらいしかないだろう。
俺は、ソレを良しとした。これでも元男である。姉である俺を意識する事も仕方ないと思うし、時間が解決するものだと考えた。俺自身に時間がなかった、というのは少し卑怯なのかもしれない。
「アレク! アレク待ちなさい!」
「……」
ギロリとこちらを向くだけで決して足は止めはしない。別にゲイルディア姉弟の不仲が噂されようがいいんだけど、お前も俺と同じように学園掌握しないといけないんだぞ! 来年入ってくるスピカ様はお前の後輩で俺はその年しか居れないんだから、結果的にスピカ様を護衛するのはお前の役割になるんだぞ! 羨ましい!
今年の内に色々引き継いでおかないと俺がスピカ様とイチャイチャできないだろ!
そんな俺の気持ちを知るわけもなくアレクは立ち止まる事なく性格によく似たツンツンとした灰銀の髪を揺らして背中を小さくしていく。
「……はぁ」
「お嬢様」
「……アマリナ。アレクをよろしくお願いしますわ」
「承りました」
アマリナがいるから面倒なゲイルディア関係の害はアレクには届かないだろうけど。少しはゲイルディアが世間にどう思われているかを体験した方がいいのかもしれない。お父様やお母様の過保護には困ったものである……いや、俺も人の事を言えないか。
アレクへと向かったアマリナを見送って人集りの方へと向かう。こういう時、顔がいい奴っていうのはどこに居るかすぐに分かるから便利である。尤も、リゲルにはそれ以外にも王族という肩書があるのだから人一倍便利だ。加えて面倒でもあるけど。
人集りの端から声を掛けるだけで俺の顔を見た生徒たちは喉が引きつったように短く声を出して道を開けてくれる。なんて親切なのだろうか。ニッコリと笑顔を浮かべて彼自身の名前を覚えている事と感謝を伝える。今度何かお礼をした方がいいだろう。彼は商人家系だから何か購入するか、他の貴族へのパイプを準備すればいいだろう。
どうしてかモーセよろしく人の海が割れたので悠々と道を歩けば中心人物は思っていた人物とは違う。正確には足りない。
「御機嫌よう、レーゲン」
「おう。ゲイルディア嬢、おはよう」
「それで、リゲル様は?」
「ん? あー、えっとだな……」
「……はぁ」
重い、重い溜め息が口から溢れ出た。頭を抱えたくなる気持ちをどうにか抑えてレーゲンを睨めつける。俺の独断で裁けないかな?
「いや、待て、ゲイルディア嬢。俺は悪くない」
「無能は嫌いですわ。理由があるなら聞きますわ」
「その……リゲルがだな。たまには一人で、と言い出してな」
「…………っはぁぁぁ」
頭が痛くなってきた。リゲルには王族として自身を律する心があったと思っていたけれど、どうやら頑張って我慢していたらしい。それが、この入学式という人が溢れやすい時に割れた、という事か。
少なくとも、レーゲン。お前はのうのうと登校してる場合じゃねぇだろ。危機管理能力が薄いのは俺が事前に止めてるからか……? いや、ある程度の脅威は見逃してるし、男同士の喧嘩染みた競争に関しては認知している筈だ。
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