第一話
「綺麗だな」
「ああ」
トウガの呟きに、柵に両肘を乗せて寄りかかるロイドが同意する。
彼らの眼前には、雲一つない晴れ晴れとした空模様と大海原が広がっており、降り注ぐ太陽光が海面に反射しキラキラと宝石のように輝いていた。
2人が現在いるのは、合衆国所属の連合王国本土行きの輸送船であった。
「まさか、戦争が続くとはなぁ…」
どうしてこうなったと言わんばかりに項垂れるロイド。
ライン戦線にて共和国主力を撃破した帝国は、首都を占領することに成功した。だが、残存していた共和国軍は抵抗の意思を消さず、態勢を立て直すために南方大陸の植民地へ逃れようとした。
それに対して帝国は――何もしなかった。投降を勧告することはおろか、追撃する素振りすらせず逃れていく残党の背を見送ったのである。
「どうやら帝国の参謀方は勝利の仕方は知っていても、使い方については無知らしい」
腕を組んで海原を眺めながら語るトウガの目は冷ややかであった。まるでこの場にいない者達を無能と罵りたいかのようであった。
聞いた話では、帝国の参謀将校らは終戦に向けた交渉すらする前に、こぞって酒宴を設けていたと言うではないか。トウガからしてみれば、何故そのような考えに至ったのか理解に苦しんだ。彼らは自ら捨てたのだ、勝利という最高の形で戦争を終わらせられる機会を永遠に。
「おかげで俺らも戦争に参加だ。やってらんねぇぜ」
深く溜息をつくロイド。帝国の犯した過ちの結果、逃れた共和国残党に協商連合残党も加わり、彼らは『自由共和国』を名乗り祖国を取り戻すため帝国に宣戦を布告した。帝国のこれ以上の拡大を恐れた連合王国上層部は、この動きに同調して対帝国戦への参加を決意、その準備に入る。
そしてトウガとロイドの祖国合衆国は、友好国である連合王国の要請を受け。以前より行っていたレンドリース等の物資の支援だけでなく、義勇兵の派遣も決定し、特派も実戦データの収集として予定通り参加することとなった。
「まぁ、これ以上は何を言ってもどうにもならん。やれることをやるだけだ」
「だな。んじゃ俺はネクストの整備してるわ」
そういって船内に戻っていくロイド。新機軸の技術を多数導入しているネクストは、最近になってどうにか実戦に耐えられる状態となったが、未だ不安定な面が多く細かな調整が必要であった。
本来なら実戦に投入するのはまだ先の筈だったのだが、とある理由で予定より早められることとなったのだ。
「『ラインの悪魔』か」
1人となったトウガはある単語を漏らした。それは帝国のとあるネームドの異名であった。その存在が確認されたのは共和国との先端が開いた初期のライン戦線からであり、単騎で精鋭の航空魔導中隊を壊滅させる等の驚異的戦果を挙げ。確認されて僅かな帰還で五機撃墜すればエースと呼ばれる航空魔導士の世界で、撃墜スコア六十を叩きだし、いつしか帝国の武力の象徴として敵対国家を恐れさせた。
そして、そのラインの悪魔率いる航空魔導部隊によって、協商連合と共和国は甚大な被害を受け。対帝国戦への参加を決めた連合王国は、航空魔導戦力を抑えれば帝国の力を大きく削げると考え、合衆国に義勇兵は航空魔導士を中心として編成するよう要請してきた。
それを受けた合衆国軍部は、対ラインの悪魔用の戦力として、トウガとネクストの早期の投入を決定したのであった。
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