胃薬はもはや常備薬
着いてしまった。いつもなら一番乗りで来る、見慣れたCiRCLEのスタジオ。この扉をこんなにも開きたく無くなる日が来るなんて、夢にも思わなかった。人生、どうなるかわかんないんだね。この先どうなるのかも知らねぇけど。
今更だけど、よくよく考えたら俺が突撃されるのって、早入りしているがために後からみんなが来たタイミングと重なるのが原因なのでは? 天才かもしれない。これからはもっと早く来るか、予知能力でも付けるか……なにか気がついてはいけない領域に踏み込んだ気がする。忘れよう。
スマホのロック画面を開くと、時刻は指定された集合時間には2分前。実質、ちょうど時間ぴったり。こういう日に遅刻でやらかすようなタイプじゃなくて本当で良かった。小中高と遅刻ゼロの名を欲しいがままにしてきた俺に、死角なんて存在しないってな。こちとら風邪をひいても体引きずって学校行ってたんだ。理由? なんとなく。早退するのって背徳感あるよね。
……現実逃避もそこそこにしなきゃだね。ちゃんと前を見ないと。
パンパンと自分の尻を叩いて気合注入。大きく息を吐いて、スタジオの重い扉を開く。
「おーっす☆」
「あっ……まー兄……」
「……珍しいですね、貴方が1番最後とは」
扉を開くと、Roseliaのメンバーは全員集合済みでした。どうやら、俺が一番最後だったようで。そりゃあ珍しいでしょうよ。扉を開けるのだって、こっちは億劫だったんだから。
リサさんはいつも通りのリサさんで居てくれているが、あこちゃんや白金さんの表情は曇っている。無理もないよ。俺だってこえーよ。それでも、男としてここはしゃんとしているべきなので。あんだけ啖呵切って喧嘩売っておいて、格好付かねぇしな。
「Welcome to Tokyo Di〇ney Sea!」
「まー兄なんか変だよ」
おかしいな。いつもこんな感じだと思ったんだけど。そんな変なこと言ったっけ。リサさんの舞い上がってるなーって感じの苦笑いがとっても突き刺さる。辛い。新しいクラスで自己紹介が滑った時並に辛い。
別に思い出したくないもんまで思い出してしまった。逃げよう。俺の定位置はあのアンプだ。
「揃ったかしら」
友希那さんが声を発すると、俺が少し緩めた空気が、また一気にピリつく。この身を挺して柔らかくしたのに。狙ってやったわけじゃないのがつらいけど。
あぁ胃が痛てぇ。胃薬、飲んでこりゃ良かったな。メンタル鍛える方法も、来るまでにググっておけばよかった。
「まず……この前は悪かったわ。1バンドメンバーとして、不適切な態度だった」
「それは、どういう意味の謝罪ですか?」
「自分の気持ちを、自分で理解しきれていなかった。あなた達との関係性を、認識しきれていなかった。その事に対しての謝罪よ」
……凄い。はっきり謝った。正直、俺は友希那さんが謝れる人かどうかわからなかったから。そういうイメージも持ち合わせていなかった。すげぇ失礼な認識してたな。心の中で土下座して切腹しておきます。許してください。
「……う~? えっと……つまり……?」
あこちゃんがこてんと首をひねる。可愛いね。ちょっと難しかったカナ?
あ、俺? 俺もね、なんもわかってない。どういう意味なんだろうね。
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