初代アホピンクとの出会いは唐突に
結局、私の必死の抵抗も虚しく、千聖ちゃんに扉は明けられてしまいました。ふざけてないのに……
部屋の中には、いつもお世話になっている涌井さんがいて、その隣にはあまり見ないスーツの男の人。笑顔見せてこちらに手を振ってきたので、思わず反射的にお辞儀を返す。
確か、スカウト業をやってる人だったような……千聖ちゃんと話してたのを見たことがある。
「おっ、みんなちゃんと来たね。ナイスタイミングよ」
「涌井さん、ご無沙汰してます」
「ワクワクさんで良いってば、千聖ちゃん。それに、前回のレコーティングからまだ一週間くらいしか経ってないんじゃない?」
「社交辞令ってやつじゃないの?」
「ん~! 日菜ちゃんど真ん中160km火の玉ストレートすんばらしい!」
涌井さんが椅子に座りながらクネクネしてる。すっごい上機嫌。いつもこの人は優しいけど、正直引きます涌井さん……でも、個人的には日菜ちゃんの発言の方が怖いよ……爆弾発言だよ……
多分、ワクワクさんとかじゃなかったら業界の闇に消されてる。千聖ちゃんすっごい苦笑いしてるし。
「そ、そうだ! それで、私たちに見てもらいたい人って……」
「おお、そうだったね。もうすぐ始まるぜ……って俺がヘッドホン付けてたら聞こえねぇわな。ヘッドホン外すからちょっと待ってな……小僧! もうちょい適当に弾いてろ!」
『誰が小僧じゃ! 178cmあらぁ!』
「残念だったなどチビ! オッサンは180センチあるんじゃ! 178~179cmという、ギリ180に届かないとか勿体ないよね~ってラインで一生右往左往してろや!」
『ちきしょおおおおおおおおおおおお!!!!!』
ブースと繋がったスピーカーから、男の子の悲痛な叫び声が聞こえてくる。か、かわいそう……
ガラスの子窓越しにブースの中を覗き込んでみると、中では茶髪のツーブロックな高校生っぽい男の子が、茶色っぽい色をしたギターを肩から掛け、ギターを弾きながらマイクに向かって叫んでいる。随分と涌井さんと息ピッタリな様子だったけど、涌井さんと仲のいい人なのかな……?
……? なんだか、あの顔の感じ。覚えがあるような……んん~……? 気の所為かなぁ。
「ジャズマスターですか。シブいですね~!」
「マヤさん分かるんですか?」
「一応、ギターもほんの少しだけわかるので。ジャズマスターも、結構有名どころですからね」
「ご名答! にしても最初の一本がジャズマスターってのは珍しいよなぁ。良い趣味してるわ」
「浅尾くん。持ってるギターはアレ一本って話ですからね」
麻弥ちゃん、ほぼ音だけでギターの種類当ててない? 凄いなー。私には何の違いも分からないや。何をもって違うってわかるだろう。音と見た目だけでギターの種類当てるなんて、想像できないや。
……今、浅尾君って言わなかったかな? すっごい聞き覚えのある響きなんだけど。
……いや~、でも日本全国に浅尾なんて、苗字の人なんてどれだけでもいるしなー。それに、彼はこっちにいないし……
「準備できてるかい」
『こっちはとっくの昔に出来てますぜ!』
「ほんじゃ、本番行こうか。3カウントから入るからね」
『好きに弾いて良いんですよね? 俺、あんまり原曲通りにはギター弾かないので……』
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