ハーメルン
咲き誇る花達に幸福を
鷲尾 須美は勇者である ー 12 ー

 あの戦いの後、私達は新士君の病室に戻ることは出来なかった。時間も遅かったし、戦った後だったので迎えに来てくれた大赦の人から大事をとって休むようにと言われたから。そのっちは戻りたそうにしていたけれど、安芸先生が居るかもしれなかったし、心も体も疲れきっていたから。その日、私は泥のように眠った。

 翌日、学校に登校するとそのっちは居た……新士君の席に、いつものように頭を置いて。その目には隈が出来ていて、あまり眠れていないのが分かる。私は彼女の頭を撫でた後、自分の席に座る。少し遅れて、珍しいことに銀が遅刻せずにやってきた。その顔は笑っているけれど、やっぱりいつもより……暗い。

 そのっちを起こしてから少しして、安芸先生が入ってきた。少し気まずい気分になるけれど、その首に包帯が巻かれているのを見て驚く。あの後、何かあったんだろうか……それに、なんというかこう、すっきりした顔をしてる気がする。

 「ホームルームに入る前に、皆さんに良いお知らせがあります」

 安芸先生はそう前置きして……こう続けた。



 「雨野 新士君が、目を覚ましました」



 「ホント!?」

 そのっちが叫ぶように言って立ち上がる。いつもの先生なら、きっと注意していたと思う。でも先生は注意するどころか、そのっちに笑いかけた。それは、前に見たことのある笑顔よりもずっと素敵だと思う笑顔で。

 「ええ、本当よ。先生も少し話すことが出来たし……もう大丈夫」

 「あ……うええええ……ああああ~……!」

 そのっちが力が抜けたように座り込み、泣き声を上げる。すると先生は……そのっちに近付いて、彼女を抱き締めた。その姿には、正直驚きを隠せない。だって昨日の今日だし、そもそも先生はあまりそういうことをしないから。

 それ以上に驚いたのは……抱き締めながらあやすように彼女の頭を撫でる先生の姿が、どこか新士君と重なって見えたこと。何が先生を変えたのかはわからないけれど……きっと、新士君が原因なんだろうなって思った。その新士君が目を覚ました。目を覚まして、くれた。

 「良かった……良かったよぉ……」

 堪えきれなくて、嬉しくて、嬉しくて……私も泣いた。



 「昨日はごめんなさい」

 放課後、安芸先生に生徒指導室に来るように言われた私達3人は、部屋に着くなり既に居た先生にソファに座るように勧められ、言われた通りに座ると頭を下げて謝られた。

 「えっと……先生?」

 「乃木さんに言われて、ずっと後悔していたの……なんて無神経だったんだろうって、傷付けることを言ってしまったんだろうって……」

 「あっ……えっと……」

 そのっちがしどろもどろになって私と銀の顔を見る。その顔にはどうしよう? どうすればいい? と助けを求めているのが見てとれる。確かに昨日、私達……というかそのっちが安芸先生に対して激怒した。正直、彼女の言葉は私と銀も新士君がああなった時に思っていたことなので撤回するつもりもそのっちにさせるつもりもない。

 でも、安芸先生はこうして謝ってくれている。それも深く、深く頭を下げて。ただ……その先生の行動が昨日までの先生と結び付かない。彼女が本当は私達のことを思ってくれているのは……分かりにくいけれど、解ってる。それでも、ここまでするのは予想出来なかった。仮に謝るとしても、頭まで下げるだろうか。

[9]前書き [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/7

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析