鷲尾 須美は勇者である ー 15 ー
「それが、君の幸せになるなら……それで、君が平穏な日常を生きられるなら」
……雨野君の声がする。彼に抱き締められている。私と彼はそんなに親密だっただろうか。片腕しかないのは、なんでだろう。幸せって……なに? 平穏な日常って……なに?
「あ……」
「忘れて、いいんだ。だから……幸福にね、須美ちゃん」
すみって……だれ?
「じゃあね」
真っ白な男の子が私から離れて、朗らかな笑みを向ける。さよならを告げる。優しげな、それでいて寂しげな声で。
彼が背を向ける。思わずその背中に手を伸ばして……届かない。後数センチ。1歩でも足が動けば届くのに、届かない、届かない……届かない。彼が跳ぶ。その先で、炎の剣が空を裂いていた。その手前で、大きな紫の光の鳥が羽ばたいていた。そして……泣きたくなる程に綺麗な白い花が咲いて。
「ーー……」
意識が遠退く。最後に何を口にしたのかは……自分でも分からなかった。
目が覚める。時間帯は夜だろうか……私は病院に居るらしく、ベッドの上で横になっているらしい。ふと右手に何か巻き付いている感覚を覚えたので目の前に持ってくる。そこには、見覚えのないリボンが巻かれていて。
「……」
何故か、それがとても大切なモノに思えて、手放したくないと思って。
「……っ……」
そのリボンの向こうに、知らない人影が3人分見えた気がして。誰か、知らない男の子の声がした気がして。
「ぁ……~……っ!!」
とても、綺麗なモノを見た気がして……訳も分からず、涙が零れた。
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