ハーメルン
咲き誇る花達に幸福を
鷲尾 須美は勇者である ー 終章 ー

 目が覚めると、見覚えのある白い天井が見えた。

 「……ここは?」

 「病院ですよ、楓君」

 声のした方を向くと、壁際にある椅子に座ってこちらを心配そうに見ている友華さんの姿があった。彼女の後ろにある窓から見える空は赤い。どうやら今は夕方らしい。

 「……戦いは……あの子達は……?」

 「今から説明しますね」

 友華さん曰く、あの戦いから5日経っているらしい。自分達が戦った日に四国を大きな自然災害が襲い、重軽傷者12名と死者2名が出たという。自分達が守りきれなかった分の樹海へのダメージが、災害という形で現実を襲ったのだという。

 その2名は大赦の人間で、自分達よりも民間人を優先して救助していた結果、逃げ遅れてそのまま帰らぬ人になったらしい。大赦にも立派な人が居たのだと思う反面、その人達が亡くなったことを悲しく思う。

 「……落ち着いて聞いてね、楓君」

 「……?」



 「亡くなったのは……貴方のご両親なの」



 「……は?」

 友華さんが何を言っているのか、理解出来なかった。ナクナッタノハジブンノゴリョウシン? 何をバカなことを言っているのか。

 「……まさか、そんな訳ないじゃないですか。2人は今もきっと大赦で働いて……」

 「……その2人に助けられた人が言っていたわ。“自分達の息子が人の助けになることをしている。なら、その親である自分達が人を助けない訳にはいかない”って……そう、言って救助活動をしていたそうよ」

 「……そう、ですか……」

 友華さんは嘘を言っていない。こんな、調べれば直ぐに分かるような嘘を付く必要がない。つまり、本当に父さんと母さんは死んだのだ。樹海が受けたダメージによって。自分達が……自分が、守りきれなかったばかりに。

 不意に、涙が溢れた。右目からだけではあったが……自分は確かに、両親を想って……あの日の別れには流せなかった涙を溢した。

 ……いや、分かっている。“仕方のなかったこと”なのだということは。自分達としてもギリギリの戦いだった。体を供物と捧げ、大切な友達は記憶を失い、その末に手にした勝利だった。だから、これは、運が悪かっただけなのだ。しかも……葬儀は既に終わっているらしい。親の死に目にも会えず、葬儀に立ち会うことも出来なかった。もう、何も言葉にならなかった。

 「……他の3人は……のこちゃんと銀ちゃんと……須美ちゃんは……」

 「それも、説明するわね」

 涙を拭き、話を聞く。のこちゃんと銀ちゃんは今も別の病室で眠っているらしい。須美ちゃんもまた別の病室に居るが、彼女の場合は戦いから翌日には目を覚まし、記憶を失っていることがわかったので今の鷲尾ではなく、元の家に戻されることになるのだとか。

 失ったのは、勇者として戦うことになった日からあの戦いまでの期間全て。つまり彼女は、自分が勇者としてお役目に着いていたことも、自分が鷲尾 須美として養子に出ていたことも全て忘れているという。

 「……やっぱり、忘れられるのは悲しい?」

 「そりゃあ、そうですよ。でも……それで彼女が平穏な日常を送られるようになるなら……いいんです」

 「……そうもいかないと思うわ」

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