ハーメルン
デビルサマナー 須賀京太郎
『悪魔召喚プログラム』

「面白いわねっ、お兄さんって」

 一体どうしてこうなったのか。少女の姿をした妖精が自分を中心にくるくる飛び回る。

「んー……。惜しい、惜しいわ。お兄さんったらサマナーじゃないから私と『契約』できないのね」

 指を一本、顎に当てて自分を品定めするその姿は大きさと羽根がなければ普通の少女と何も変わらない。

「あっ、そうだわ!」

 パンっと手を叩いて、自分の背中をぐいぐいと押しながら「ほらほら、こっちに来て! いいものがあるのっ」と妖精は言った。

「あれがあればきっとここから外に出られるわっ。お兄さんだってここから出たいでしょう?」

 妖精に言われ改めて周りの様子を見渡す。
 一見すると少年の知っている商店街の風景なのに、決定的に違うのは人が居ないことと空気が淀んでいるのか黒ずんで見えることだ。
 それに目の前には物語の世界にしか居ない筈の存在だって居る。
 
 そうだ。俺は『ここ』から出なければならない。
 『ここ』に迷い込んでどれほどの時が経ったのか分からないが、それでもここに『ここ』が危険な場所だと言うのは既に体験した。

「私外の世界に興味があるのっ。お兄さんと一緒ならきっとここから出られると思うの。だからほらほらこっちこっち」

 このまま妖精に従っていいのか? 
 そう思いながらも行く当てもないため、そのままついていくと「着いたわっ。動かせる?」と声を上げた。
 妖精の目の前にあったのはくたびれた小さなノートパソコンだった。
 調べようとしたところ、パソコン以上に眼をひく物体が存在した。
 
 白骨と化した人の骨である。
 
 ノートパソコンに人骨の手が置いてあることから、ノートパソコンが人骨の物であるのは分かる。
 手を合わせ冥福を祈った後、人骨の手をどけてノートパソコンに手をかけた。
 ノートパソコンの電源を入れたところバッテリーはまだ生きており画面に光が灯った。
 通常であればパソコンにインストールされているOSの名称が表示されるはずだが、代わりに見覚えのない文字の羅列が表示された。
 
 『DEVIL SUMMON PROGRAM』
 
 日本語で言えば『悪魔召喚プログラム』だろうか。
 それ以外にも数多の文字が羅列し上から下へと流れていくが京太郎には理解できなかった。
 
 『悪魔召喚プログラム』奇しくもその名を自分は知っていた。
 この世界に来る直前に噂程度の知識だが情報を得ていたからだ。
 都市伝説でしかないはずのそれが、存在している現実に戦慄を抱きながら微笑みながら浮かぶ妖精に視線を向けた。

「やっぱり動かせるのねっ! 壊さなくてよかったわっ……ね、お兄さん」

 少女の見た目とは思えぬほどの妖艶な笑みを浮かべる妖精を見て、『悪魔召喚プログラム』の意味を身を以て思い知る。
 
「改めて私と契約してくれないかしら?」

 これが何もない空虚な青春を送ると思っていた自分の、『須賀京太郎』の運命を決定づけた出来事の一幕だ。
 悪魔・天使・神……そして人。
 それらに翻弄されながら生きることになるなんてこの日の朝には思いもしなかったのは間違いない。
 
 この日が運命の始まりであるのならば。
 この日に至る切っ掛けはなんであったか、思い返してみよう。

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