邂逅
アイズ・ヴァレンシュタインは、ファミリア──延いてはこのオラリオで、剣姫という二つ名を与えられている。
文字通り彼女は剣使いであり、その腕は二つ名がつけられるだけあって非常に達者で、数いる冒険者の中でもトップの実力を誇っているし、その容姿は本当にお姫様を攫ってきたのではと思わせるくらい可憐だ。
そんなヴァレンシュタインとはもうだいぶ長い──もっと具体的に言うのであれば9年の付き合いではあるけれど、僕は未だに彼女とプライベートな交流をしたことが無かった。
僕だってここ、ロキファミリアではそれなりの実力があると自負している冒険者であり、ダンジョン深層への遠征だって行くし、打ち上げと称して複数人で酒場に行ったこともあればダンジョン内で鉢合わせして一時的にパーティを組んだことも有る。
──だが、それだけだ。
戦闘上の、非常に事務的な会話しか僕たちはしたことがない。
だからといって、彼女のコミュニケーション能力や、僕の対人能力に特別問題が有るわけではなかった。
確かに彼女は物静かで口数は少なく、自己主張はあまり強い方ではないが、かといって引きこもり気味だったりとか、誰とも仲良くしようとしないとか、そういう訳ではない。
彼女だって親しい友人はいるし、僕だって同じように(少なくはあるが)良く絡み絡まれる友人がいる。
彼女が親しい友人──例えば、彼女と同じレベル5冒険者であるティオナ・ヒリュテだったり、その姉でありやはりレベル5冒険者のティオネ・ヒリュテと良く談笑している姿を見かけるし、またレベル3冒険者であるエルフの魔法使い、レフィーヤ・ウィリディスに尊敬されていることも知っている。
他にも僕には与り知らぬところで交流を重ねているであろう、そう思えるくらいには、彼女にコミュニケーション能力はあった。
では全く話すことのない僕とヴァレンシュタインの仲が悪いか、と問われたらそれは恐らくノーであろう。
決して本人から聞いたわけではないが、余程のこと──つまり無意識的に彼女の嫌う言動をしているか、僕が彼女を認識する前に生まれた恨まれるような過去が無い限り、そういったことはないと断言できた。
なぜ自信を持って言えるかと言えば、答えは至極簡単だ。
端的に言えば、嫌われるほどの関係を僕等は作り上げていないのだ。
ロキ・ファミリアはオラリオ全体で見てもトップの実力、規模を誇っていて、抱えている人員もそこらのファミリアとは比べ物にならない。
その上このファミリアは、主神の好みもあって女性が多く、男性がかなり少なかったりする。
ほぼ同時期に入ったとはいえ、性別の違いもあり、共通して自ら積極的に関わりに行くような人間ではなかった。
だから僕等は今まで関わることはなかった。
──それで良いのだろう、僕は僕で楽しくやれているし、彼女もまた彼女で充実して過ごしている。
例え同じファミリアで、どれだけ長くいようがそれで個人的な絡みがない人間がいたところで果たして支障はあるだろうか?
非常に現実的な意見として言わせてもらうが、それは全く無い。
だから、僕等はきっとどちらかが死ぬまで、必要最低限の会話だけをするような仲なのだろう。
ヴァレンシュタインもそう思っているだろう、いや、思っていなかったとしても、もし指摘されれば同じような答えに辿り着く筈だ。
それで良いのだ、そういった関係の人間も、一人くらいは悪くない。
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