ハーメルン
【完結】精霊とか知らないけど、たぶん全員抱いたぜ [士道 age21]
第14話 俺の心を奪いたいなら死に物狂いで来な
魔王は宙に佇みながら、足下から見上げるひとりの漢を眺めては顔をしかめる。
「生きていたのか…シドーとやら。
十香
(
わたし
)
は死んだものだと思っていたようだが」
「まあな、死んでも死なないのが俺だ」
「理解し難いな…貴様は」
「神の視点でしか俺を理解できないぜ」
会話を交わす度にどんどんと魔王の顔は曇っていく。怒りと哀しみが入り交じっても尚美しい顔で魔王は士道を睨み付けた。
「まあよい。そんなことはどうでもいいのだ。生きているなら私が手ずから殺すのみ…」
魔王は士道に対して殺意を滾らせて、漆黒の大剣の切っ先を向ける。
「貴様は
十香
(
わたし
)
を哀しませた。
十香
(
わたし
)
にとって貴様は剰りにも眩しすぎて堪らなかった…!
十香
(
わたし
)
は貴様に惹かれていた。惹かれ過ぎていた!!」
胸の奥から涌き起こる感情を叫ぶ魔王。悲壮に染まるその顔は儚げな少女のそれによく似ていた。十香というひとりの少女に。
「その輝きを、光を喪った哀しみが貴様にわかるか?…私には解る。
十香
(
わたし
)
にとってのこの世界は貴様と居ること…ソレだけだったんだ!それを貴様は…!!」
表裏一体だった魔王と十香は混ざり合った。この叫びはどちらのものなのか、それは言わずもがなだろう。
「喪うことがこんなに辛いのなら知らなければよかった!…想いなど!愛など!初めっから知らなければよかったんだ!シドーのことなんて……シドーなんて…!」
彼女の瞳からは衝動と共に大粒の涙が流れる。愛が溢れて止まらない。だから彼女は、止まらないのだ。
涙を流したあと、彼女は黙りこんで俯いた。時間にして五秒も経たないうちに顔を上げると、そこに涙はなく再び怒りの炎が宿っている。
身体からは黒い波動が止めどなく放たれ、全てを壊す魔王が君臨する。
「…故に。故に貴様は殺す。この世界と共に壊す。
十香
(
わたし
)
を苦しめるもの全てをこの剣で破壊する!塵ひとつ残らず…消えるがよい」
† † †
「ああ!なんでこうなっちゃうかなぁ!!」
「中津川さん、拗らせた愛ってのはね…時に何よりも重いんですよ」
「わかります。それ」
「あんたらが言うと重いなホントに!」
フラクシナスではふたりの様子をモニタリングしながら、中津川が椎崎と箕輪に突っ込みを入れていた。
「不味いわね…話し合い。というより士道が十香を丸め込んで終わりかと思ってたけど、雲行きがあやしくなってきたわ」
乗組員たちの様子を横目に、独り言と共に琴里は考えを巡らせていた。
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