今日はお休み(下)
「まさか姉妹がいたとは……。人違いをしてしまったのは本当にすまなかったね。でも、一花ちゃんはこれから大事なオーディションがあるんだ」
「そんな急に……、一花!花火、いいの?」
「…………皆んなによろしくね」
出た。
あの薄っぺらい笑顔。
嘘くさいあの顔。あの子……。
「一花ちゃん、急ごう。会場は近い、車でなら間に合う」
「あの子………」
「フー子。足、これ以上無理っぽい。一花をお願い」
「だけど、あんたを一人にする訳には……」
「私はもう大丈夫だよ。十分すぎるくらい、色々してもらったからね」
「分かった!でも……花火が終わるまであと10分しか……」
「お困りのようですね……」
「ハッ!お、お前は………!!」
ーー謎のリボン、現るーー!
一花を追いかけていって、辿り着いた先はバス停だった。
「一花!」
ここにいたか。
一人で待ってる……髭のおじさんはいないみたいだね。
「あの人は?」
「車取りに行ってるとこ」
………ほんとに、戻るつもりはないんだね。
「フー子ちゃん。もう一度聞くね?なんでただの家庭教師の君が、そこまでお節介焼いてくれるの?」
「私とあんたが、協力関係にあるパートナーだからだよ」
「……そっか。私、さ。半年前に社長にスカウトされて、ちょくちょく名前もない役をやらせてもらってた。結構大きな映画の代役オーディションがあるって教えてもらったのがついさっき。いよいよ本格的にデビューかもってとこ」
そっか、そうなんだ。それが……。
「それが、あんたのやりたい事だったんだ」
「そう!あ、せっかくだから練習相手になってよ」
「やだよ」
「協力関係でしょ~」
「………棒読みだかんね」
「やったー」
めんどくさ……。えーっと、この文字を読めばいいんだよね。
「いくよ」
私が適当に台本を持った横で、
「お願い」
一花はとても綺麗に立っていた。
この子が、どんなところで、どんな風に生きていきたいのか。その一端が見えた気がした。……今の彼女は、すごく、素敵な女性に見えた。
それはよくある学園モノで、クライマックスの感度の卒業シーンだった。
「先生、あなたが先生でよかった。あなたの生徒でよかった」
…………。
思わず少し涙ぐんでしまった。
「あれ?もしかして私の演技力にジーンときちゃった?」
「いや、あなたが先生でよかったなんて、あんたの口から聞けるとは……」
「そっちか!まっ、取り敢えず。役を勝ち取ってくるよ」
んー。
まあ、この子に言いたいことは色々あるけど、それは他の四人の子達が言ってくれるだろうし。
これは私個人が言いたいことだ。
「一花」
「?」
パチン。
「!?」
一花の両頬を両手で挟んだ。
「ほえ?」
「その作り笑いをやめて」
「え………」
「あんたはいつも大事なところで笑って本心を隠す。ムカッとするよ、正直」
あんたが本心を喋らないなら、私の方から喋ってやる。
「私の家には借金がある」
「………っ」
「その借金を返すために家庭教師をやってる。だけど私はあんた達に何もしてあげられないままお給料を貰っちゃった。だからせめて貰った分の義理は果たしたい、それが私の本心!以上!」
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