ハーメルン
異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず)
第1話 異世界で 上前はねて 生きていく

ボンゴの朦朧としていた意識も1週間ほどでかなり明瞭になり、かんたんな受け答えもできるようになっていた。

なんだかんだと1ヶ月で羽も右腕も生えて完治、さすが俺、丸儲けだ。

欠損奴隷ビジネスはやめらんないぜ。





とはいえ大変なのはリハビリテーションだ。

とりあえずピクルスと同じように、回復は魔法だよりでスパルタでやらせることにした。

下手に飛ばせて墜落したらまた治療しなければいけないが、まぁなくなった所から羽を生やすのよりはマシだろう。

ボンゴは毎日何かに取り憑かれたかのように朝から晩まで羽をばたつかせながらうちの中庭をうろつきまわって、使用人達を気味悪がらせた。

俺は夕方学校から帰ってから治癒魔法をかけてやるのだが、どうも鳥人族ってのは飛ぶために色んなとこが脆くできてるらしい。

空を住処にする鳥人族が無理に地べたを這いずり回ってるせいか、結構骨に細かいヒビが入ったりしていてなかなか痛々しい。

それでもうわ言のように「飛びたい……」と言いながらリハビリをしているのは、やはり鳥人族にとって飛ぶ事というのはアイデンティティなのだろう。

冒険から帰ったピクルスも心配そうに、深夜まで続く彼女のリハビリに付き合ってやっていた。





2ヶ月後。

春の訪れと共に全治のときが来た。

空を見上げると元気に飛び回り、幻影燕と追いかけっこをするボンゴの姿がある。

どうも彼女は鳥人族の中でもかなり飛ぶのが速い氏族の出のようで、郵便配達の鳥人の倍ぐらいの速さで飛んでいる。

そりゃあ、あの速度で墜落したら羽も手足も失くすわな。

納得だ。



「おーい!いい加減に冒険者ギルドに行くぞー!」



叫ぶ俺の傍らでは、使い込んだ槍が案外サマになっている先輩冒険者奴隷のピクルスが我関せずといった様子で露店の肉串を食べている。

こいつは去年買ったときよりも30センチは背が高くなり、尻も脚もでっぷり太く肥え、スパイク付きの蹄鉄がむやみにカッコイイ。

なかなかツワモノっぽい見た目になってきたが、ギルドでの等級はまだまだ下の下だ。

なんせ1年間小型害獣しか狩ってないからな。

この事業のアドバイザーであるオベロンが「仲間が揃うまでは無理をしないほうがいい」と言ったからそれを愚直に守らせたのだ。

俺はゆっくりでも投資した分が安定して返ってくればそれでいいからな。

それでもボンゴ次第ではあるが、これからはもう少し冒険の幅が広げられるだろう。

頑張ってくれ、かわいい奴隷戦士たち。

俺をたっぷり儲けさせてくれよ。

俺の夢は自分の劇場を持ち、毎日一番いい席で寝転がって暮らすことだ。

俺の名はサワディ・シェンカー。

爽やかなサワディさんとでも覚えてくれ。

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