ハーメルン
異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず)
第98話 お年玉 親も子供も 嬉しいね
雪がパラパラと舞い落ちる夜も夜中、今日は大晦日、今年最後の日。
家族と一緒に今年の事を思い返したりしながら、皆自宅でのんびりと過ごす、そういう日だ。
そんな静かな日に、トルキイバの街の中で一箇所だけ、闇を切り裂く光と騒音を撒き散らしている場所があった。
中町の一角、最先端の五階建て
超高層
(
・・・
)
マンションが立ち並ぶシェンカー家の奴隷たちの巣窟、その名もシェンカー通り。
双子をしっかりと寝かしつけた後、今年の事を色々と話しながらそこに歩いてやってきた俺とローラさんは、視界に入る光景に完全に面食らっていた。
「なぁ、去年はこんなに人がいたかい?」
「いや……ここまでは……どうなってるんですかね?」
人、人、人。
通りはまさに人の海だった。
立って歩いている人達はもちろん、通りの地べたに布を敷いて酒盛りしている集団がいたかと思えば、マンションの通路から顔を出して騒いでいる人達もいて、上にも下にも真ん中にも人間がいる状態だ。
「ぎゃはははは!」
「飲み過ぎだっつーの!」
「飲み溜めだ! 飲み溜め! タダで酒が飲めるなんて年の瀬ぐらいなんだからさぁ!」
老いも若きも楽しそうにうちの酒造場の振る舞い酒を飲みまくり、立ち並ぶ屋台やマンションに入っている店で調達した肴に舌鼓を打っているようだ。
しかし、なんだろうか。
どんちゃん騒ぎではあるんだけど、お祭りと言うほどの非日常感はないというか、前世の花見が近い感覚だな。
大人ばっかりじゃなく子供達も沢山来ているというのも、なんだかいかにもそれっぽい。
夜中だからか、眠そうに目を擦っている子もちらほらいるけどな。
「去年も人が多かったと思うが、今年はもう比べ物にもならないな」
「年の瀬は元々仕事もありませんし、近所の人がみんな来ちゃったのかもしれませんね。こんなに騒いでちゃあ、後で町会長から怒られるかもしれないなぁ……」
「まあ、たしかにね。でも君は、こういう賑やかなのが好きなんだろ?」
なんだか楽しげにそう言うローラさんだが、今日のこれは賑やかっていうかうるさいっていうか……
「いやいや、年末年始ぐらいはちょっと賑やかに過ごしたいなあって思うぐらいですよ」
なんなら今はシェンカーの人間だけでもめちゃくちゃ数がいるんだから、身内だけの集まりにしたっていいぐらいなんだ。
まぁでも、そうするとうちの子達が彼氏とか旦那を連れてきにくいだろうから……まだしばらくは今の形の方がいいんだろうけど。
奇声を発しながら酒を飲む人々を見つめながらそんなことを考えていると、隣のローラさんが「おっ」と声を上げて中空を指差した。
「この上のキラキラしたやつは、この間君が作ってたやつかい?」
「あ、そうですよ、こうして吊るすと華やかでいいでしょう」
「見ているとちょっと目がチカチカするけれど、ハレの日はこれぐらいでいいのかもね」
そう言って目を瞬かせた彼女が指差す先では、様々な色のイルミネーションがキラキラと瞬いていた。
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