ハーメルン
異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず)
第17話 功績は 人に譲れど 益高し




不機嫌そうな顔になったクリス先輩に、不意に背中を小突かれた。



「おい、指導担当の私はそれを聞いていなかったんだが?」

「すみませんクリス先輩、お忙しいと思いましたので分析が済んでからお話しようと思っていました」



物には言い時ってものがある。

魔導学園サバイブ術の基本だ。



「いやいや、私が『調子はどうだい?』などと聞いたから開発途中のものを見せてくれたんだろう。君は悪くないよ」

「ありがとうございます」



俺は先輩と教授の間でペコペコ頭を下げ続ける。



「それで、この技術なんだが、もし良かったら今季の学生研究の枠でやってみないか?」

「よろしいのですか?」



これは僥倖だった。

ほんとは『クリス先輩から貰ったヒントで……』とか、『クリス先輩の指導のおかげで……』とか、『平民の私ではこのテーマは重責に過ぎる……』とか言って無理やり成果をクリス先輩に押し付けようとしていたのだ。

こりゃ手間が省けた。

平民がこういう将来の功績に直結する成果を出して、軋轢がないわけがないからな。

今は良くても、後で進退に響いてくる、そういうものだ。



「マリノ教授、彼にはまだ早すぎます」

「いやいや、そこは君が指導員として面倒を見てやってくれよ。いらぬ横槍が入らないよう、どうせ論文の表書きは君の名前で進めるつもりだったんだ」



そうそう。



「……むぅ、たしかにまぁ、そういう事ならばやぶさかではないですが」

「その方がシェンカーも助かるだろう、口だけの貴種の相手などする必要もないとは思うが、余計な波風は立たぬほうがいい」

「そうですね、私もできれば名前は出ない方が……」

「そうだろ、ホールデン、予算をつけるから君の名前で人員や資材を調達して進めていってくれ」

「わかりました」



不承不承だがまんざらでもないといった様子のクリス先輩に「よろしくおねがいします」と深々と頭を下げる。



「まぁこの私が関わるのだ、大船に乗った気持ちでいろ」

「はい」



護身完了だ。

平民にとっての学業とは、成績は良くて当たり前。

常に他人の気まぐれな悪意による退学(クビ)との戦いなのだ。

俺は立身出世なんか興味ないけど、向上心のありすぎる人なんかだと大変なんだろうなぁ。







家に帰ると、ちょうど造魔バイコーンの魔結晶交換をやっていた。

背中に設けられたハッチから、うちの丁稚が魔結晶をザラザラと流し込んでいる。

そう、この技術の素晴らしいところは造魔の維持に魔法使いの手が必要ないところだ。

これなら術者は作りっぱなしでいい。

楽さは全てに優先される、楽は正義なのだ。



「サワディ坊っちゃん、お帰りで」

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