ハーメルン
異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず)
第20話 シェンカーの 奴隷が町を 支えてる
「ピクルスさんは黙っててください!頭のあんたが舐められたら、うちの班みんな舐められちまうんだ」
朝に荒くれ者が集まると、そりゃ喧嘩も起きる。
喧嘩ぐらい誰もとやかく言わないけど、冒険者と一般人となると色々問題が出てくるんだよな。
力が違いすぎて洒落にならないのだ。
「歯ぁ食いしばれや!」
体重のある猪人族のプテンの張り手が蛇人族の男の頬に思いっきり決まり、彼は膝を折ってへたり込んでしまった。
「あっ……歯がっ……ひっ……いでぇ……」
「今度ピクルスさんの顔見たら、俯いて歩けよ!三下!」
まぁ、まだ
これぐらい
(
・・・・・
)
ならいい。
問題は……
「プテンちゃん、駄目だって言ったッペ」
次の瞬間、カウンターの前をがっしりした体格のプテンが錐揉みをして飛んでいき、拠点の前の道を何回転も転がって止まった。
起き上がってこないけど、たぶん死んじゃいないだろう。
ピクルスの張り手一発で、本職の冒険者すらこのザマだ。
さっきの男も、青ざめた顔をしてピクルスの方を見ている。
修羅場を潜り続けた冒険者の膂力って半端ないもんね。
最近拠点の奥でこっそりやってる穴掘りでも主力になるのは冒険者達だ。
もう一般奴隷とは効率が違いすぎて笑えてくる。
やっぱ普段から鎧着て、重たい槍振ってる人達は違うわ。
朝の混雑もようやく終わり、働きに行くみんなを送り出したらようやく少し休憩だ。
隣にあるうちが経営する喫茶店でお高い珈琲を買って、本なんかを読んで過ごす。
喫茶店の珈琲は社割を使っても『こんな贅沢してもいいのかな』って思ってしまうぐらいに高いが、どうしてもやめられない。
実は珈琲に限ると利益率が低いのも知っているので、お得な気がして余計に飲んでしまう……
仕方がない、この珈琲が美味しいのが悪いんだ。
昼食を食べたら、他の皆は工事開始だ。
休みだけど駄賃目当てで働きたいって奴らが2、3人穴に降りていって、掘って土を出しての繰り返しだ。
冒険者組が帰ってきたら、これまた駄賃を稼ぎたいやつが続きをやることになっている。
それとなぜかわからないが、ケンタウロスのピクルスがめちゃくちゃ横穴を掘るのが早いんだよな、なんでだろ?
私は今朝入ってきたお金を使って中間管理職候補を教育しながら、工事の進展を見守る。
町の地下をダンジョンまで掘り抜くなんて、町の自治会にバレたらぶっちゃけ大変だ、気をつけないとな……
「今日最初の曲は歌劇『裸族の女』より『服を脱ごう』」
「いくよ。チッ、チッ、チッ、チッ」
音楽隊の声がして、喫茶店の方から拠点の中に、軽快なリズムと低い歌声、コードを刻む弦楽器と明るいラッパの音が広がる。
工事の音は建物の中にいてもほとんど聞こえないけど、土を引き上げる滑車なんかもあるので有志が喫茶店の方で音楽を演奏してごまかしているんだ。
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