ハーメルン
異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず)
第25話 逢引は ちゃちな芝居と 奴隷の巣
「これを頼んでいいかい?」
「かしこまりました」
側に仕えていた侍女が頭を下げて厨房に向かった。
なかなか豪奢な服を着ているじゃないか。
「あの服」
「はい」
「ああいうのが好みなのかい?」
「そういうわけじゃないんですけど、拘ったらああなってしまいまして」
「今度着てあげようか?」
「え?あ、いや……はは」
「どうした、嫌なのかい?」
「いや、サイズがね……」
言葉を濁す彼の視線は、私の胸元に来ていた。
口元が緩む。
やはり、寄せて正解じゃないか……ミオン。
店を出ると、もう夕方だった。
店の前には町馬車が待っていて、その周りを揃いのブレザーを着て武装した女たちがたむろしていた。
「ご主人様、お疲れ様です」
「ああ、お疲れ様」
鱗人族の女が彼に頭を下げているが、実家の商会の私兵なんだろうか。
なかなか体格のいい奴隷だ。
向こうにいるケンタウロスはかなりの恵体だな。
馬部分もそうだが、人間部分もコンパクトながら筋肉の塊だ。
どういう鍛え方をさせているんだろうか。
「実家の私兵かい?」
「いえ、奴隷冒険者なんですけど、こういう時は警備を頼むんですよ」
「冒険者か、この娘などは軍なら曹長並だな」
「こいつ、元軍人ですよ」
そう言われた鱗人族は素早く脱帽時の敬礼をした。
なるほど、自分で治せるのならば奴隷というのはなかなか掘り出し物が多そうだな。
「奴隷で軍隊でも作るつもりなのか?」
「いえ、魔結晶を集めて貰ってるんですよ。うちは商家ですから」
「ああ、なるほどな」
無駄に鍛えられているのは彼の酔狂ということか。
戯れに軽い殺気を飛ばしてみる。
鱗人族は迷うことなく私とサワディの間に入り壁となった。
離れた場所にいるケンタウロスは鬼のような形相で片手に投げ槍を構え、筋肉を弓のように引き絞っている。
よく見ると他にも赤毛の魚人族が背中で剣を抜いているし、他の奴隷たちも大半が武器に手を添えている。
よく躾られているじゃないか。
草刈りの者なりに、それなりに死線は超えているようだ。
「よく鍛えているじゃないか」
私は鱗人族の肩に手を置いた。
金色の目の奥が全く油断していないな、いつでも死ぬ気だ。
たかが奴隷にここまで忠誠心を持たせる……か。
また一つ、彼の魅力が見つかったな。
[9]前
[1]後書き
最初
最後
[5]目次
[3]栞
現在:4/4
[6]トップ
/
[8]マイページ
小説検索
/
ランキング
利用規約
/
FAQ
/
運営情報
取扱説明書
/
プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク