ハーメルン
異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず)
第31話 戦争は 帰ってきても 終わらない
人生山あり谷ありだ。
崩壊しかかった部隊の殿として、押し寄せる敵兵どもに雷光を打ち込みまくったのは覚えている。
部下に引きずられるようにして砦に戻ったらしい私は、再生魔法使いの気の毒そうな顔で目を覚ました。
そこからは怒涛の展開だ。
幕僚の訪問、受勲、激励、除隊。
手元に残ったのは勲章と年金手帳、そして魔臓の欠けた体だけ。
先に子供がいて良かったね、と家で待っていた妻は力なく笑う。
それはたしかに幸いだ、ゴスシン男爵家は息子さえいれば安泰だ。
だが、俺はどうだ?
地獄の日々が始まった。
魔法のない生活は、普段意識したこともなかった不自由ばかりだ。
煙草を吸うにも魔具を使わないといけないから、一人のときには煙草を吸わなくなった。
自分で買うと魔結晶は高い。
今後は一家3人で年金暮らしなんだ、節約しないと。
便所だって、貯水槽に水を入れるのは人力だ。
俺用の瓶と柄杓が惨めな気分を煽る。
夜中に目が覚めても、本を読むこともできない。
暗視も発光も使えないからな。
まぁ、不便な事は多いがそれは仕方がないことだ。
なにより俺を惨めにさせたのが、なんの仕事にもつけないことだった。
仕事人間の俺にとってはこれが辛かった。
退役軍人は教師になったり鉄道に関わったりするものだが、両方とも魔力がない人間にはできない。
俺はなんのために生きている。
俺は一体何なんだ?
俺は魔法が使えないと、こんなにも無価値な人間だったのか?
悶々と過ごして3年目、体に変化が訪れた。
どうも、下痢がひどい。
食事を消化しやすく柔らかいものに切り替えた。
顔色も悪い、なんでだ。
咳も出る。
運動もしていないし、体調を崩す事もあるのかな。
退役から5年目。
体調は良くなったり悪くなったり。
伏せる事も多くなった。
わんぱく息子は士官学校の寄宿舎に入り、家からはまるで火が消えたようだ。
訪ねてくる人もいない、孤独が心を蝕む。
髪が抜け始めて、明らかに老けた。
町を歩く同年代はまだまだ精悍なままだ。
俺は、俺はどうなるんだ……?
魔臓をなくしてちょうど10年。
最近は立って歩くのも辛い。
腹や胸の中も痛いところだらけ。
完全に老人だ。
もう妻とは父と娘ほども見た目が違う。
離縁を切り出した事もあるが、彼女は優しい顔で首を横に振る。
「国のために尽くして、魔法も無くして、一人っきりじゃああんまりじゃないですか」と、そう言ってくれた、俺は退役して初めて涙を零した。
そんな死を待つだけの日々の最中、手紙が届いた。
陸軍の、かつての上司からだ。
すでに退役している彼が、会いに来るというのだ。
俺は断った、今の自分を見られたくなかった。
だが、上司はどうしても会いたいという。
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