ハーメルン
異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず)
第31話 戦争は 帰ってきても 終わらない
何やら店の取り壊しをやっているらしい。
大槌を肩に担いだ女が何かしら指示を飛ばしている。
「あの人足たちもシェンカー一家です」
「なるほど」
更に、俥夫は『ペペロンチィノ』と赤字で書かれた屋台を指さした。
元気に呼び込みをする声が聞こえる。
昼前なのに、横で待つ人もいるようだ。
「あれもシェンカー一家の屋台です」
「へぇ」
最後に俥夫は、揃いの鎧をつけて槍を引っさげた
草刈り
(
ぼうけんしゃ
)
の者達の一行を指さした。
「あれはシェンカー一家の部隊です」
「ちょっと待て、シェンカー家ばっかりじゃないか」
さすがに話を遮った。
いくらなんでも手広すぎる、なにか絡繰があるんだろ?
俥夫は振り返らずに首を振った。
「だから、大変に繁盛してるんですよ」
「そんなにシェンカー家が商売をやってたら、町のものは食い詰めるんじゃないのか?」
「へぇ、そういう所もあるにはあるようなんですが……シェンカー一家は町のほうぼうの仕事場に人足を貸し出してお代を貰ってるんですよ」
「じゃあ誰も本職じゃないのか?」
「最近は職を定める者もいるようなんですが、基本的にはそうですね」
凄くみみっちい稼ぎ方だな。
あれだけの再生魔法の腕があればいくらでも稼げるだろうに、なんでこんな回りくどいことをするんだ?
「シェンカー様の末息子は、『慈愛』のサワディ様って呼ばれとるんで」
「慈愛ねぇ」
「あの子らみんな元はタダ同然の欠損奴隷なんです。それを治して、働かせて、小遣いまでやって、手に職が付くのを待ってやってるんでさぁ」
「あぁ……そりゃあ慈愛かもなぁ」
俥夫が鼻をすする音が聞こえた。
強面の男なのに意外と涙もろいのか。
俥夫から視線を逸らすと、真っ赤な帽子を被った猫人族が路地に走っていくのが見えた。
「今走ってった赤い帽子はなんだい?」
「ああ、あれもシェンカー一家でさ。最近始まったトルキイバ便ってやつでして、トルキイバ内ならどこにでも手紙を届けてくれるって仕事です」
「下民向けの郵便のような事までやってるのか」
「まぁ、世の中上と下がありやすが、トルキイバの下の方はもう、借金から人足の手配までシェンカー様にかかりっきりでさぁ」
「なかなかの商家のようだな」
貴族と下民の世界というのははっきり別れている。
普通はお互い決して混じり合うことのないものだ。
その中間で、シェンカー家は上手くやっているんだな。
息子の少し年上の彼が、急に大人びて思えた。
士官学校にいる息子は、どう育つんだろうか?
願わくば、息子が魔臓をなくすことだけはありませんように……
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