第五話『誓い』
『まだ少し休憩するでしょう? できるだけ精霊の情報が欲しいわ。ちょうどいい機会だし、幾つか四糸乃に質問をしてみてくれない?』
そう琴里がインカム越しに喋りかけてきたのは、ちょうど食事が終わり一息入れたのを見計らった時だった。
質問? と小声で返すも、まさか狂三がいる前で精霊に関しての質問をする訳にはいかないし……
「ご馳走になってしまってばかりでは申し訳ありませんわ。お片付けは、わたくしに任せてくださいませんこと?」
そう考えていた矢先、狂三が唐突に立ち上がり両指を合わせてそんな事を言い出した。まるで、こちらのしたい事を読み取ったかのように。
「あ、いやお客さんにそんな事させるわけには……」
『待ちなさい士道。こっちにとっても好都合よ』
「気にしないでくださいまし。それと――――」
士道に届く琴里の指示より早く、狂三はどんぶりを重ね台所へ向かう、そのすれ違いざまに――――
「――――今のうちに、存分に四糸乃さんとお話をお楽しみくださいな」
そんな言葉を、士道の耳元で囁いていった。ゾクッ、と色々な意味で背筋が凍りそうなほど驚かされる。……耳元で狂三の蕩けるような声を聞いたせいか、妙に赤くなった耳は知らんぷりすることにした。
『……驚いたわね。どれだけ察しが良いのよ、あの子。本当に何者なのかしら』
「さあ、な……」
……今に思えば、四糸乃から最初に話を聞いた時も不自然なワードがあっただろうに狂三は何も言わなかった。小さな声だったし、正面から聞いた士道と違って横で手を握っていた狂三は単純に聴き逃したものと思っていたが……もしや、聞いた上で敢えて何も知らないふりをしてくれていたのだろうか? だとするなら、狂三の察しの良さと何も聞かないでくれる気遣いに感謝するしかない。
何処か末恐ろしさすら感じながらも、狂三の気配りを無駄にしないよう、親子丼を平らげ満足そうに息を吐く四糸乃に目を向けた。
「なあ、四糸乃。ちょっと訊きたいことがあるんだが……いくつか質問してもいいか?」
「……?」
既に質問の内容は琴里から指示されている。不思議そうに小首を傾げる四糸乃に、士道は問いかけた。
「その……随分大事にしてるみたいだけど――――よしのんって、おまえにとってどんな存在なんだ……?」
これは士道も気になっていた事だった。友達、そう呼んでいたが詳しい事は何も聞いていない。あのパペットを通した状態だととても愉快な性格になっているということは分かるのだが……。
士道の問いかけに四糸乃はたどたどしく、しかし確実に言葉を紡いだ。
「よしのん、は……友だち……です。そして……ヒーロー、です」
「ヒーロー?」
「よしのんは……私の、理想……憧れの、自分……です。私、みたいに……弱くなくて、私……みたいに、うじうじしない……強くて、格好いい……」
「理想の自分……ねえ」
思い返すのは、先日デパートの中で四糸乃と出会った時の事。パペットを付けた四糸乃……よしのんは確かに四糸乃と比べてハキハキと物を言う上にノリもよく元気ハツラツだが――――
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