一件落着ですか?(涙目)
片手を失って僅かに狼狽しているゴーレムが、魔王の命令でその場を駆け出した。
残ったもう片方の腕に全体重を乗せ、目の前に立ちふさがる女騎士に巨大な拳を繰り出す。
ユノアが腰に携えている長剣を鞘から抜いた。
とてもゴーレムの拳を受け止められるような強度ではないように見えるが、現にあの剣は奴の強固な右手を切り落としている。
「ふっ──」
ユノアは軽やかな身のこなしで、ゴーレムの拳を刀身で受け流した。
目の前の騎士という着地点を失った拳は止まることなく、そのまま地面に激突する。
すると、ゴーレムが身動きを止めた。……いや、止められてしまったと言うべきか。
あまりにも力が込められていたそれは、深々と地中にめり込んでしまっている。
腕が抜けないゴーレムがあたふたしている間に、ユノアはその場を飛び出した。
「セイッ!」
風のように振るわれた軽やかな斬撃は、ゴーレムの首元へと襲い掛かった。
身動きが取れないゴーレムに、もはやその剣を受け止める以外の選択肢はない。
ヒュッ──と、突風が一瞬巻き起こる。
その風は俺のほうにも少し吹き、思わず目を閉じた。
数秒後、恐る恐る目を開けば、そこには首が切り落とされて機能が停止しているゴーレムと、器用に長剣を腰の鞘に収めた女騎士がいた。
……弱点とか突かずに真正面からゴーレム倒しちゃったぞ、あの人。しかも、ゴーレムと対峙してから一分も経過してない。
まさに瞬殺……クソ強い(確信)
あの強さ、まさに勇者パーティの一員として旅をしてきたっていう、何よりの証拠だ。
「あわわ、スペシャルゴーレムやられちゃった……」
彼女の鮮烈なまでの強さに感心していると、魔王がわざとらしく焦りながら椅子から腰を上げた。
そしてすぐさま開いた右手を上に掲げ、高らかに叫ぶ。
「しょっ、召喚ーっ!」
言い終えると同時に右手をギュッと握りしめる。
すると、俺たち三人を取り囲むようにして、無数の紫色の魔法陣が出現した。魔王が叫んだ通り、紫色の魔法陣の役割は『召喚』だ。
瞬間的な危機感を覚え、俺は地面で寝そべっているトリデウスを背負い、ユノアの近くまで移動した。
周囲を見渡せば、いつのまにやらゾロゾロとゴーレムやらトロールやらが魔法陣から湧いて出ている。
どいつもこいつも冒険者ギルドで要注意危険生物に指定されている、高位種のバケモノたちだ。よく見れば、先程倒したゴーレムと同位種の奴もチラホラ見受けられる。
「──いやいやいやっ! 片手で何してんのお前!?」
思わず叫んでしまった俺の反応は正常なはずだ。
まおう あたま おかしいね。
ベテランの冒険者でもすぐさま逃げ出す程の数にも拘らず、さらに魔法陣から高レベルの魔物たちが押し寄せてくる。
それは明らかな、俺たちへの殺意の表れに他ならない。
ゴーレムに手を伸ばされた時以上の緊張感が体に走った。
これはさすがに、逃げないとやばいのでは……?
「私ってば戦うの苦手だし、あとはこの子たちに任せるね~。……あっ、一応ラルちゃんは捕まえるように指示してあるから、本気で消されそうになる前に投降しちゃってね! それじゃっ!」
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