ハーメルン
起きたらマ(略)外伝?
SSS7:航海日誌0082「原因」

時間は少しだけ巻き戻る。

『そこっ!』

短く、そして鋭い叫びとともに放たれた光条が機体の中心を正確に捉える。交戦から僅か30秒、俺の乗ったゲルググは爆発し、アワレ大佐は死んでしまった。ナムアミダブツ!

『これで8戦4勝4敗ですね、大佐。決着を付けましょう!』

ノリノリでそんなことを言ってくる対戦相手、冗談じゃねえとはこのことである。

「いやいや、どう考えても君の勝ちだろう」

勝敗の数こそ同点だが、その内容は大きく異なる。最初の三回は俺が勝ったが、どれも10分以上戦った上にこちらの機体もボロボロにされている。対して向こうが取った後半の三連勝は俺が一方的に嬲られる内容だ。最後なんて一回もガンカメラに捉えてねえし。

『ふむ。まあ、ゲードライの性能ならば致し方ないでしょう。今回のセッティングはどうだったかな、ショウ曹長?』

シミュレーションをモニタリングをしていたテム・レイ大尉がそう対戦相手に声を掛ける。冷静を装っているが俺には解る。今小躍りしたいくらい喜んでいるだろう?

『はい、とう…テム大尉。関節の反応速度は良好ですが、最大加速の際にメインスラスターが少し咳き込みます。それとフレキシブルバインダーの動きが追いついていないのかAMBAC主体の旋回時に機体が想定値より若干流れています』

『フレキシブルバインダーはまだ試験段階の装備だからな、経験値が貯まるまでは仕方がない。しかし大佐、困りますな。そう簡単に撃墜されては十分な学習を積ませることが出来ません』

こいつら無茶苦茶言いますね。

「とりあえず一回休憩させてくれ、流石に堪える」

そう言ってシミュレーターから降りると、手すりにもたれかかっていたシーマ中佐がタオルとスポーツドリンクの入ったボトルを渡してくれた。

「お疲れ様です、大佐。しかし末恐ろしいですな」

彼女の視線の先には、隣のシミュレーターから降りてテム大尉と意見交換をしているショウ・ブルームーン曹長の姿があった。

「まあ、ある意味当然の結果だよ。恐らく彼はMSに搭乗してるという前提ならば今現在の人類最強だろうからね」

「最強とは大きく出ましたね、でも大佐は一回勝っているじゃないですか」

そりゃね。

「十分な補給も整備も受けていないMS相手に、圧倒的性能差の機体で辛勝というのがその勝ちの内容だがね。事実性能が互角ならこの有様、少しでも上回れば最早万に一つも勝ち目は無いよ」

「聞き捨てなりませんな、大佐。ゲーツヴァイはともかくドライをゲルググごときと同じと思って貰っては困ります」

そのごときというのはジオン軍の主力MSなんですよ、大尉。横で引きつった笑みを浮かべてる中佐に気付いてくれませんかね?

「第一今のドライは量産用設定です。次の一戦では本当のドライをお見せしますよ」

何、究極のMSを味わわされちゃうの?

「おいおい大尉、アンタコイツを量産するとか本気かい?」

多分に呆れを含んだ声音でシーマ中佐がそう口にする。無理もあるまい、このゲードライはジオン木星船団に乗り込んだテム・レイ大尉が極秘に設計したMSである。ぶっちゃけると長期の航海に1週間ほどで飽きた俺が晩酌にテム大尉を巻き込んだら、翌朝机の上のタブレットに殴り描きされた設計メモがあったのだ。どうも酔った勢いでテム大尉にあれこれ吹き込んでしまったらしい。んで、言ってしまったものはしょうがないと、折角だから本当に作れるか設計してみようぜ!という悪乗りの結果がご覧の有様である。RX-78ガンダムをベースにインナフレーム構造をぶち込み、フレキシブルバインダー――百式なんかに付いているアレだ――で運動性を向上、アデルトルート嬢が送ってくれたルナチタニウムデルタを主構造材とすることで従来機を圧倒する機体強度、耐熱性を確保している。流石にエマルジョン塗装は再現できなかったのでビームコーティング済みのシールドとバイタルパートに耐ビーム増加装甲を設けることで生存性を担保している。ああ、ついでにギャンのデータを拝借してコックピットの耐G性能を上げるとともに冥王星エンジンを転用。機体重量がギャンより大幅に減っているから、加速性能は1.2倍、最高速も1.5倍である。テム大尉曰くフレキシブルバインダーの制御が慣熟すれば単独で飛行可能とのことだ。バカじゃねえの。

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