雫の刻は動きだす【記憶の断片(序幕)】
「う、うあああぁぁぁあ!!」
隊士がいたところを月明かりが雲の隙間から照らし出す。
そこには引き裂かれた隊服と血溜まりしか残されていなかった。
ーーーー
体が地面に立っているはずなのに浮遊感に襲われる。
(また夢ですか)
手を引っ張る両親と思われる男女を見上げる。
この夢は初めて見た時以降、数ヶ月に一度の頻度で見るものになっており、もはや何本の木とすれ違ったのかすら数える余裕ができてしまうほど繰り返し、今ではすぐに夢だと自覚できるほどになった。
夢の中にいる自分は首や目を自由に動かせず、依然として山崩れの時に聞こえた声の方向を見れていないし、男女の2人が土砂に飲み込まれるところを何十回と見ているが、なにも手掛かりになるものは見つけることができずにいた。
しかし、この日は少しだけ変わっていた。
(……ここは?)
どうやら何かの建物の中にいるらしい。
大きな部屋の中で視線の低い自分はただ動かずに座っている様だ。
(…何の夢でしょう)
そう思った時、部屋の引戸が力強く開けられ、入ってきた眩い光に目を細める。
外の太陽の光を背に中へ歩いてくる人物は、自分の夢に出てくる手を引っ張る男性だった。
(これは、あの夢の前の記憶?)
男は焦った様子で何かを話しかけながら、手を引っ張って外へと出た。
建物の正体はどうやら寺らしく、それらしき建物と庭が見え、そのまま門から出たその瞬間、「神童院」と書かれた看板が横目で見えた。
そのまま森の中へ入り、寺が見えなくなった頃、前方の木からいつも夢に出てくる女性が慌てた様子でこちらへ駆け寄ってくると少しだけ話をした後、山の奥の方へと走り出す。
その森の様子と手を繋ぐ男女を見上げるその風景は何度も見た夢のそのものだったが、そこで世界は明るくなっていく。
その瞬間体が引っ張られる感覚に襲われた。
目を覚ました部屋の中はまだ暗く、わずかに月明かりが部屋の中を照らしていた。
ふぅと吐いた息は月明かりに照らされ、白く色付くと空へと溶けていく。
深夜には屋敷の中でも白い息が出るほどに冷え込む、季節は秋だ。
(あの寺が、私の過去を知る手掛かり…)
布団から上半身だけ起き上がらせた雫はそう考えていると、頬の上が一筋冷たくなっていることに気づき、指で撫でると指先は濡れていた。
(……私、泣いて…)
何度も見た夢のその前の出来事を見れただけ、それでも雫にとっては大きな一歩だった。
「……あそこへ行くことが過去を知ることになる」
本当の自分がきっとそこに行けば分かる。
そう考えていると、ふと炭治郎が聞いてきた言葉を思い出す。
『……どうして雫様は、そこまで強くなれたのですか?』
自分と関わってきた人物はふと純粋に気になって聞いてくる。
そしていつも私は話す前に考える。
私がここまで強くなれた理由?そんなの言えるはずもない。なぜならそれは
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