記憶の断片(壱)
- 記憶の断片(壱) -
暗闇と静寂に包まれた寺の中、部屋の真ん中に蝋燭の火が辛うじて周りを認識できるほどの光を放ってくれていた。
ガタガタと揺れる襖は穴だらけで、そこから風が部屋の中を通り過ぎていく。
薄暗い部屋の中、西洋の服を着た男の老人、奈落は胡座で座りながら隙間風に揺れる蝋燭の火を眺めながら鬼舞辻無惨の言葉を思い出していた。
『奴を殺せたのなら、貴様を新たな上弦として迎え入れよう』
口端を吊り上げ、頬が何重ものシワを作りながらその老人は笑い、掠れた低い声で呟いた。
「こんな形で会えるとはな、大竹雫」
その時隙間風がひゅうと音を立てて強くなる。
蝋燭の火が小さくなり、瞬きの間の暗闇が部屋を包み込んだ中、奈落は掠れた声で呟いた。
「是非とも私の力で…君を殺してやろう」
僅かな残り火で再び部屋を照らしはじめた蝋燭の前には、奈落の姿はなかった。
ーーーー
風が枝葉を揺らし、木々の隙間を通り過ぎていく音が鳴り響く中、雫は駆けていた。
報告にあった山の名は鷹帯山、柱や雫の速さならば二刻程度で着ける距離であった。
(あの山を超えた先ですね)
崖などの障害をものともせず、ひたすら最短距離で向かっていると、一気に木々がなくなり、視野が広がる。
目の前に緩やかな傾斜で広がる鷹帯山を視認した時、風で流れてくる空気が明らかに淀んでいく事に気づく。
「これは…鬼の気配?」
これまで斬ってきた鬼、十二鬼月といったものから感じる気配とは変わったような気配を感じ表情を険しくさせつつ、鷹帯山へと入山する。
鷹帯山の中は案の定空気が重く、この山に鬼の存在がいることを確信すると、風が吹く中で血の匂いが充満している場所に辿り着いた。
(……ここでやられたんですね)
そこには引き裂かれた隊服、投げ捨てられた日輪刀、明らかに死んでいる量であろう血溜まりが辺り一帯に所々残されていた。
雫は引き裂かれた隊服の一部を拾い、握り締める。
「……必ず、私があなた達の犠牲を無駄にはしない」
そう言い残し、懐へ仕舞うと更に気配が濃く、空気が淀んでいる山の奥へと進んでいく。
すると大勢の小さな笑い声が耳に届き、足を止めた。
暗闇の中、目の前の木々の隙間を覆い尽くすように白い着物を着た子供達が数えきれない程立っていた。
「………」
雫は何も言わず、静かに柄を握りゆっくりと抜刀する。
その間にも周りからはクスクスと子供の笑い声が響いている中、一瞬風の流れが止まった。
それと同時に周りの子供達が人間には出せない速さで飛びかかってくる。
それはまるでしけた海の波のように、壁を作り出すように圧倒的な数であった。
雫はその光景を目の当たりにしても焦りはなく、すぅと息を吸った。
《水の呼吸 改 流流・打ち潮》
その瞬間、全方向から飛びかかっていた子供達は頸は勿論、手足や胴が全て細かく切り分けられて地面へと落ちていく。
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