記憶の断片(壱)
「大竹雫、私は君に感謝したい。あの方は鬼が群れることを嫌う、君の存在がなければ私は今頃殺されていた。だから…だから感謝として……君を殺してあげよう」
その声とともに森の暗闇から今まで再生していたであろう白い子供達、それと混ざって新たに強い気配を持った鬼が4人迫ってくる。
最初よりも多く、強力な鬼が様々な血鬼術を放ってくる中、焦らず刀を下手に構える。
タイミングもわざとずらしながらの集中攻撃は逃げ道がない状況を作り出していたが、そこで一つの疑惑に確信を持った。
相手が自分を攻撃する際、体の急所をわざと外して攻撃しているのだと。
(…なにかしらの形で私の能力に気づいたのか)
それも当然だ、最初にやっていた時の呼吸縛りも、鬼舞辻の血が濃ゆい下弦陸、上弦の肆、以前の鬼の群れとの戦闘で情報は十分持っているのだろうからだ。
「まぁ、分かったところで意味はないですけど」
すぅと浅く息を吸い、止める。
《時の呼吸 三ノ段 水鞠》
鈍間な時の中で雫波紋突きよりも二段三段上の高速な突きを数千に渡って全方向へ放った。
速い突きで刀身に纏っていた青紫の水が雫となって鞠のように綺麗な丸を形作りながら全方向へ放たれる。
時が戻り、隙間なく囲っていた子供と鬼の体がその水鞠に触れた瞬間、殆どの敵が僅かな肉片を残して消しとんだ。
「数が多ければいいって話ではないですよ」
刀を何千と振る流ノ雫とは違い、水鞠は高速突きを何千と放ち、攻撃範囲が狭くなる代わりに体力の消耗が半分以下に抑えられるものだ。
攻撃範囲が狭くなる分、突く威力や速さは振るよりも一段上になる。
地面へと落ちた肉片が再生を始めるのを見つつ、頭痛が響く中声の気配を追って森の奥へと駆けた。
ーーーー
雫が山の中腹辺りで水鞠を放っていた頃、赤帯山へ入山した直後から襲いかかる子供たちの襲撃をものともせずに突き進む五人の姿があった。
「さっきから斬った奴らが後ろで数増やしながら追ってきてるぞ、気を緩めるな」
「うん、了解」
「雫様はどこまで行かれたのでしょう…本当に速いですよねぇ」
「………」
「あの方のことだ、もう十二鬼月を追い詰めててもおかしくねぇ」
彼らが雫と合流するまであと一刻。
夜が明けるまで、あと二刻。
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