ハーメルン
TSっ娘が悲惨な未来を変えようと頑張る話
いもうと(清楚)

 初夏。

 虫たちが賑やかな鳴き声をあげ、森に活気が満ち溢れる季節。

 僕たちの村も益々の活気に溢れ、旅人からもたらされる滞在費や交易により更なる発展を遂げていた。


 4歳の頃、僕の提案した『酒税』については賛否があったものの、老人会の承認を得て実際に施行してみる運びになった。

 村長黙認の『脱税店』も設けているので、客からすれば結局『今まで通り』の商売なのだが……。結果として、村の利益はより増える結果となった。

 1泊する余裕のある旅人は宿屋に泊まるようになり、宿屋が大繁盛したのが大きい。宿が人手不足に陥って、繁忙期は僕達子供もお手伝いに駆り出されることすらあった。

 上がった利益で宿屋はほんのり増設され、旅人の滞在率が増えたことでより多くの酒が売れるようになり、それに目を付けた流浪の商人数組が居ついてしまって。結果として僕達の村の商業規模がより発展した。

 売り方を変えただけで、利益は大きく変わる。僕は旅人から聞いたそんな話を、身をもって実感したのだった。



 そして旅人が増えたということは、僕の著作も順調だということだ。3年かけて執筆し続けたポート聴聞録は既に5巻となり、偉大な曾祖父の合計20巻の1/4と迫った。曾祖父の時代では考えられない旅人の数である、毎日のように新しい話が聞ければ筆も進むというものだ。

 そして、最近は何でもかんでも記録するのをやめるようにした。いくら何でも酔っ払いの戯言にしか聞こえない話や聞いたことのある話は、省くようになった。

 あまりに千客万来、山盛りの土産話を聞くことができる環境なので、僕は面白い話や為になる話をある程度厳選しないと寝る時間が無くなるのだ。そして、その膨大な土産話の内容を『どうすれば村の発展に生かせるか』というまとめ本も作成することにした。

 思い返せば曾祖父も、その話の重要なエッセンスだけを重点的に記録して他の雑談はさらりとしか記述していなかった。サマライズ、つまり纏めて分かりやすく記す事こそ重要なのだ。

 5巻の『どうでも良い話混じりの聴聞録』から得た知識や気付いたことを、1巻の書物に纏めて順序だてて記していく。農民の立場から、いかにすれば村は発展するかを考察した農民のための指南本。

 僕はこれに『農冨論』と表題し、文字通り血の滲む思いを込めて記し続けた。目的は、無論ただ一つ。



 ────あの頭の悪いアホ領主に、叩きつけてやるためだ。


 この本には農民の実際の暮らしと発展への道筋を、僕らの村を例にとり各地の冒険者の話を参考に記しあげた。これを読めば、いくらアホだろうと『1年1割の発展だ』なんて馬鹿は言い出さないはずである。

 もうすぐ、領主が視察に来る季節。それまでに、ある程度の形にして用意しないと。

 それでなお分からないようなら……、最悪は事故に見せかけて殺す。その、覚悟も当然している。

 村の7歳の子供が事故で領主の息子を殺したとして、せいぜい僕の処刑か、一家皆殺しまでで止まるだろう。両親には悪いが、フォン・イブリーフの死が将来的に村にもたらすメリットが大きすぎる。

 僕が人生をやり直した意味は、この村を守り抜く為。あの、残酷で悲惨な未来を捻じ曲げる為。そのためならば、大好きな父さん母さんを犠牲にする事だって許容範囲だ。

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