「これは――」
第三甲板に到達したセブン達は皆一様に言葉を失った。有体に言って酷い惨状だったのだ。破壊された高射砲、モスキート、更にそこら中に転がるASだったモノ。内部機構の露出した機械人形が壁や地面に叩きつけられ絶命し、人工血液を撒き散らしながら骸を晒している。天音は思わず口に手を当て嗚咽を零し、セブンとナインは厳しい表情で周囲を見渡した。IFFに至近距離味方信号なし――文字通りの全滅だった。
「! セブンさん、FOB内部から敵反応が」
「まさか――内部に入られたのかッ!?」
IFFに味方信号はなかったものの、ナインの機体に敵反応があった。セブンが慌ててメインプラント内部へと続く回廊へと駆け込めば、無惨に引き裂かれたハッチが目に入る。まるで巨大な重機によって破砕されたかのよう。セブンは一瞬転がる骸を一瞥し、それからぐっと眉間に皺を寄せ叫んだ。
「突入する、ナイン!」
「はい」
セブンはナインと肩を並べ内部へと突入を開始する。刑部と天音も慌てて二人の後を追った。現在他の部隊からの連絡はない、ジャマーが近づいているのか、或いは通信する余力すら持たないのか。内部へと続く回廊はそのままハンガーへと続いていた。やや傾斜した地面を下れば巨大な空間に辿り着く。広々とした空間、兵装を格納する為の場所である。ASを吊り下げる為のフックや機材、装甲板等が並べられたハンガーは酷い血の匂いが充満していた。内部へと踏み込んだ小隊は皆一様に足を止め、思わず口元を覆った。
「これは――」
「うッ……!」
大量の死体。FOB1のバックス達だろう、無惨に殺され破壊された機械人形。それが十、いや百か、兎に角夥しい数の仲間が殺されていた。碌な抵抗も出来なかったのだろう。武装していても、それは精々が小銃や拳銃の類であった。セブンは恐る恐る息絶えた機械人形のひとりに近付き、その首に手を当てる。冷たく、信号に応答がない。機能を停止していた。
『味方信号探知――周辺に稼働中のASは確認出来ません、対人・対機械人形信号反応なし、探知を終了します』
「……バックス諸共、やられたのか」
茫然と呟くセブン。ナインは蒼褪めた表情で周囲を見渡しながら、辛うじて震えを抑え問いかけた。
「セブンさん、FOB1の有人割合は――」
「……大丈夫だ、FOB1はバックス含め殆どが機械人形で構成されている、居ても十か其処ら、『感染連鎖』の可能性は低い」
『警告――敵反応急速接近』
セブンの声を遮る形で、警告アナウンスが全員の耳に届いた。四人は連射砲を即座に抱え直し、四方へと視線を向ける。その内のひとり、天音がハンガーの奥から此方に迫る影に気付いた。
「セブンさんッ、奥に、奥に何かッ……!」
「!?」
全員の視線がハンガー後方へと向けられる。途端、内部に響く唸り声。全身の筋肉が隆起した人間モドキ。四つ足歩行をする彼奴は素早く、壁に張り付き、そして何より強い。点滅を繰り返す非常灯に照らされたその姿を見て、ナインは叫んだ。
「四足ッ!」
『敵反応至近距離、脅威指数――五』
アナウンスが終わるより早く、四足はその俊足で以って接近。前衛であるナインとセブンを飛び越え刑部に襲い掛かった。それは宛ら豹の如く。ASに迫る体格を持った豹だ、それも顔面が人間の。凄まじい質量の突貫を喰らった刑部は後方へと弾き飛び、そのままハンガー内壁へと激突した。
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