「はッ、はァ、ぐ、ぁ……」
『警告、機体主骨格に致命的な損害、BTリンク障害発生、脊椎接続確認、起動、BTリンク再接続……DEシステム再起動確認、網膜ディスプレイ投影開始、機体状況、火器管制システムに異常発生、D-2アクチュエータ破損、Y4装甲全損、バランサー反応なし、BT装置を機体制御補助なしに切り替えます――パイロット及びVDS兵装の保護優先、ジェネレータ回路切り替え開始、緊急保護状態移行、機体出力が三十%低下します』
機体は、酷い物だった。四足の体当たりをもう何度喰らったかも分からない、これが本格的に掴まれていたならば自分は無惨な肉塊と成り果てていただろう。首を引っこ抜かれるか、そうでなくとも脊椎接続を無理矢理解除され、脳がスパークして死ぬか。最悪な未来予想図だ。刑部は全身の装甲が歪み、所々火花を散らす機体を見下ろして思った。
何度も地面を転がされ、壁に叩きつけられた衝撃で意識が朦朧とする。頑丈な重装四脚でなければ疾うの昔に大破していただろう。機体は全体の装甲が凸凹に凹み、特に肩部と脚部は酷かった。表面層も完全に剥がれ内部機構が露出寸前、抉れた装甲がささくれの様に千切れ、頻繁に盾にしていた肩部装甲は内側に捲れていた。手に持っていた連射砲は、既に床を滑って遥か彼方。空いた鋼鉄の手で頬を拭えば、ぬるりとした感触がBTリンク越しに感じられた。掌を見て見れば真っ赤だった。
網膜ディスプレイのアラート表示が煩わしい、長々しい警告アナウンスが五月蠅い。
「あぁ、くそ」
目前で、壁にのめり込んだまま動かない刑部を見る四足。それが三体。まるで手負いの獣を仕留める様にじわじわと包囲網を狭める。刑部が戦う意志を喪い、心を折られ、項垂れる瞬間を待っているに違いない。そんな確信があった。
――自分は此処で死ぬのだろうか。
刑部は思考する。覚悟はしてきた。否、そもそも覚悟などする必要などない。既に刑部という人間は己の生存にすら頓着していない。口と思考の表層では「死んで堪るか」と宣いつつ、その実腹の奥底では死のうが生きようがどうでも良いと思っている。
「思ったよりは……早かったな」
ただ、そう。思っていたよりは早かった。ただ、それだけの事なのだ。刑部は呟き、そのまま瞳を閉じようとした。此処で自分はこの四足に食い殺されて骸を晒す、そういう結末なのだ。
四足が唸りながら自分を見据える。食い殺すか、途中で脳を焼かれて死ぬか。どちらにせよ、碌な死に方ではないな。薄っすらと笑い、そんな事を考える。
そう、自身の生存を諦めかけて。
「刑部さんッ!」
強い、生命力の溢れる声が耳に届いた。
閉じかけた瞳を開き、声の方へと視線を向ける。視界に入ったのはナイン、その人であった。彼女は凄まじい勢いで走行し、今まさに刑部に飛び掛かろうとした四足の一匹を勢いそのままに蹴り飛ばした。凄まじい打撃音、肉を打つ音。そのまま着地と同時に地面を滑って火花を散らし刑部の前へと躍り出る。蹴り飛ばされた四足は体をくの時に曲げながら地面に叩きつけられ、そのまま力なく壁に叩きつけられた。
「――ナイン?」
刑部はどこか夢心地で彼女の名を呼んだ。まさか救援が来るなど、思ってもいなかったのだ。ナインは肩を弾ませ、息を荒げながら刑部を睨みつけた。余程急いで来たのか、その顔色は蒼白であった。刑部の視界一杯に、彼女の顔が広がる。彼女は刑部に詰め寄り、叫んだ。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/7
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク