ハーメルン
鉄屑人形 スクラップドール

「おめでとう、これでお前達は正式なAS乗りだ」

 目前に立ったセブンがそう告げた。
 ASを纏ったまま輸送機に乗り、ウォーターフロントのハンガーに送られた刑部達四人は、セブンの放ったその言葉に僅かな喜色を滲ませた。ナイン、天音、刑部、全員に少なくない疲労が見て取れる。訓練で死ぬほどの目に遭ってきた、だから実戦でも大丈夫。そう教官は言っていたが――果たして、その通りだった。寧ろ訓練の方が過酷であった可能性もある。

 ハンガーの一角を占領して行われる簡易任官式は整備員たちの目を引いた。その中に若い男が混じっているのなら然もありなん。しかし、騒ぐほどではない。正確に言うのであればAS適性を獲得して初めて此処を訪れた時は、何というか凄かった。つまり此処に来るのは初めてでないのだ。だからこそまぁ、そわそわする者は多いものの直截的な行動を起こす者はいない。

「既にお前達の端末にはライセンスが付与されている、制服や強化服も追々支給されるだろう、これからはこの基地がホームとなる、宿舎の場所は分かるな? 今日は休息をとり、明日また今後の行動を通達する、詳細は宿舎の端末から確認しろ、では各自機体を降りて体を休めるように――以上、解散だ」
「はい!」

 セブンの言葉に三人は声を上げる。どこか嬉しそうな表情を浮かべるセブンはそのまま踵を返し、ハンガーの一つに機体を引っ掛けた。機体を降りるのだろう、刑部もそれに倣い誘導する整備員の指示に従い端のハンガーに機体を乗せる。せり上がった地面に足を揃え、左右から伸びるアームに身を任せる。

「オッケーです、機体固定します、フック用意! 掛けられますか!?」
「大丈夫です!」

 機体の脚を広げ固定板の上に乗せる。後は背中の骨格をフックに引っ掛け、躰と機体の接続を切った。瞬間機体の姿勢がガクンと崩れ、フックに吊り下げられる人形となる。
 刑部は背中の脊椎接続ボルトを順に外し、漸く自由の身となった。

「ふぅーッ……」

 首を回すと骨が鳴った。パワーアシストが働くと言っても、やはり甲鉄の躰は重い。手と足をぶらぶらと回しながら機体から飛び降りる。キャットウォークに着地し、そのまま整備員に手を上げた。黒髪の、頬を油で汚した溌剌とした女性だった。

「最終試験合格おめでとうございます、刑部さん!」
「えぇ、ありがとうございます、機体の整備、よろしくお願いしますね」
「任せて下さい!」

 力こぶを作って満面の笑みを見せる女性。刑部はそのままキャットウォークを下り、ハンガーの出入り口へと歩く。途中途中で他の方にも、「合格おめでとう!」とか、「お帰りなさい!」という声を掛けられたので、その一つ一つに丁寧に頭を下げた。

 試験前もこのハンガーでASを装着したが――まぁ、大変だった。

 死んでしまうかもしれないからやめようとか、危険な事は止めて後方で安全に暮らそうだとか、私が養うからASから降りてとか。

 出撃前に機体の周囲をわらわらと固められたので、結構本気で困った。しかし大体がこの身を心配する言葉ばかりだったもので無碍にも出来ない。その騒動は偶然やってきた教官の一喝で終息したが、正直あれが出撃の度に繰り広げられるのなら遠慮願いたい。
 兎角、何とかこうして五体満足で帰還する事が出来た。喜ばしい事だ。

「刑部さん!」

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