ハーメルン
理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)
第十七話 小細工
やっべ、傷見られた。
正直油断してたという他ない。
多分ベルネルを掴んで落ちた時にどっかでひっかけたんだと思うが、見事に腕に切り傷を負っていたのをベルネルに目撃されてしまった。
たまにさ、あるじゃん? 痛みもなかったのに気付いたらどっか切れてたって事。
まさに今回がそのパターンで、ベルネルに言われるまで自分の腕に切り傷がある事自体分かってなかったわ。
しかし不幸中の幸いだったのは、目撃したのがベルネル一人だったという事。
一人ならばまだ誤魔化しは利く。
言い訳の達人である俺はすぐに腕の傷を治し、それと同時に赤い糸(っぽいもの)をその場で魔法で創って『傷じゃないよ。糸だよ』とベルネルを見事に騙す事に成功した。
ちなみに使ったのは光魔法。色っていうのは要するに光の反射と聞いた事がある。
だから光の魔法を極めれば色はいくらでも自在に作り出せるんじゃね、と俺は思った。
俺はあの時、赤い光を糸状に見えるように調整してあたかもそこに糸があるように演出したわけだ。
ま、聖女ロールには欠かせない小細工ってわけよ。
人っていうのは目で見た物に心を揺さぶられやすい。
だから光の魔法であらゆる色を自在に操れるようになれば、いくらでも神々しい『奇跡』を演出出来る。
虹もオーロラも自由自在。ちょっと神々しさを出したい時とかにちょちょいのちょい、であたかも天が俺の味方をしているかのように自分で自分をライトアップ出来る。
安い奇跡だと自分でも思うが、まあ奇跡っていうのはタネが割れりゃあ大体チンケなもんさ。
さて、それはともかくとして暴走したエテルナだが、今はすっかり大人しくなって正座していた。
顔は真っ赤になり、プルプルと震えている。
「魔女の気持ちは分からない」
「ブフォッ!」
フィオラがボソッとエテルナの台詞を真似すると、モブAが噴き出した。
エテルナはますます顔を真っ赤にし、泣き笑いのような表情で震えている。
穴があれば入りたいって心境だろうか。
でも自業自得だから我慢して、その恥ずかしがる表情を俺にもっと見せてくれ。
いやー、この顔だけでご飯四杯はいけますわ。
結局のところ、全てはエテルナの勘違いだった。
皆の所に戻った俺とベルネルはそう説明し、そしてベルネルは皆の前でエテルナと同じようにナイフを握りしめ、『例外』がある事を示した。
勿論これでベルネルに魔女疑惑が向く事はありえない。何故ならこいつは男だ。
エテルナもベルネルと同じ例外で、たまたまそういう力を持っているだけだろう、という事でエテルナはようやく落ち着きを取り戻したのだが……今度は急に自分の発言と勘違いと醜態が恥ずかしくなったのか、今のようになっているわけだ。
「しかし興味深い……魔女でも聖女でもないのに、しかし似ている力。それは一体……」
変態クソ眼鏡が興味深そうにベルネルを見る。
こいつが興味を持つ気持ちも分からんでもない。
何故なら『魔女は聖女でなければ倒せない』という大前提を、もしかしたら覆せるかもしれない可能性がベルネルにはあるのだ。
だがベルネルの力は、その期待に応える事は出来ない。
何故ならこいつの力の源は、魔女の魂……の一部だからだ。
今代の魔女がまだ自分を保っていた頃に、僅かな力と共に切り離した良心と魂。それが生まれる前の魂に付着して、魔女の力を持つ男が生まれた。それがベルネルである。
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