ハーメルン
うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる
九頭竜竜王

九頭竜が竜王になりました。対局は7局目までフルセットで行ない、ギリギリの勝利。俺が29連勝で将棋界への注目を集めた中、俺と同世代の棋士のタイトル奪取ということで世間が盛り上がるし、九頭竜は調子に乗り始める。あ、ちなみに歩夢には負けておいたので、また連勝記録は1から伸ばしていて現在18連勝中です。

クリスマスの日にタイトル奪取をして、雛鶴あいとの内弟子約束までする人生の勝ち組になった九頭竜は正直羨ましい。一方で俺は悲しく1人でオンゲ祭りです。まだ纏まったお金は入って無いしね。なんかの取材とグッズの料金でいくらかは入って来ているけど。

(なあなあ、最近、歩夢が負けまくっているんだけど何で?)
『9割方、マスターのせいなのですが』
(えー?俺との対局は普通に歩夢が勝っただけじゃん)
『歩夢視点でマスターとの対局を再生してあげましょうか?今、ここで』





沢山の報道陣に囲まれ、大木晴雄の30連勝目を賭けた対局が始まる。

「フッフッフ、これほどの数のカメラの前に立つのは久しい。ならば自己紹介をしておこう。
棋士にして騎士!白銀のシュヴァリエ!ゴッドコルドレン歩夢だ!」

振り駒の結果、神鍋歩夢五段の先手番が決まる。カメラ映えのする神鍋の方を撮るカメラマンもいるが、この場にいるほとんどの人間の注目は大木四段の方に向いていた。

神鍋が7六歩と指し、2手目。何も気負うことなく、大木はノータイムで3二金と指した。

「なっ!?」

何処からともなく、驚きの声も上がる。居飛車党である神鍋に対して「お前は飛車を振れない男だ」という挑発をする手でもあり、決して良い手ではない。2手目から定跡を外れる将棋は、神鍋の持ち時間を否応なしに削った。

大木は、淡々とノータイムで指しきる。まるで全てが研究済みであるかのように。いつもはこれで徐々に大木へ形勢が傾いて行くが、今日は違った。明らかに神鍋が勝勢になったからだ。

冷や汗を掻きながら、自身の勝勢を確認する神鍋。今までと比べて歯ごたえが無かったために、自身の勝勢に疑いの目を向けざるを得なかった。一方で持ち時間を一切使わずに負けへ直行している大木は、脳内でアイと言い合いをしていた。

『ここから一手差まで巻き返せってマジで言ってます?というか初手7八金、3二金を広めたいって正気ですか?』
(だって相手に不利飛車を強要出来るし、個人的に振り飛車は絶滅して欲しいし)
『それなら今日の試合も勝って良いじゃないですか。3二金を指して勝つ、程度の条件なら楽にクリアできますのに』
(俺に勝ったら歩夢の成長にも繋がるんじゃない?それにそろそろ、負けたい)
『マスターは何という贅沢な男でしょう。まあ、一手差での敗北は承りました。どの道、ここから巻き返しても一手差で負けます。……ノータイムで指し続けるから、こんな局面になるんですよ?』
(アイもノータイムだろ)

勝ちを確信した神鍋は、勝利へと繋がる1手を指す。もうここからの逆転は、無いと思われたその時。

今まで無理攻めだと思われていた手が、無駄だと思われていた手が、一気に歩夢の王へ襲い掛かる。残り少ない持ち時間を更に使った歩夢は、1分将棋に入った。

「っく!……この指し回し、もはや人間業では無い!!やはり貴様は、我が最強の敵手!」

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