第8局 育成選手 上重漫
「で、この形は何を切ればいいとおもいますか?」
「ええ~と……{4}??」
「ちがあああああう!!飛び対子の基本は中から切る!{6}が正解!」
上重漫の特訓が行われているのは、放課後。部活も終わり、各自自主練習か、帰宅を選べるこの時間に、多恵は漫を部の対局室に呼んで特訓を行っていた。
もう特訓開始から2週間が経過している。
漫は順調に成長していた。元々あった才能に、基本的な知識をしっかりと叩き込むことで、素の雀力も伸びてきていた。あまりちゃんとした指導を受けてこなかったようで、意外と見逃しがちな基礎知識が足りていない部分が多かったのだ。
そして何よりも自分の状態を上げる練習。漫が最高の状態に入れば、多恵ですら相手にするのは厄介だ。その状態にどうすれば早く持っていけて、そして維持できるのか。その練習を主軸にして特訓は行われていた。
今日もある程度の基礎知識問題と状態を上げる特訓を終えて、頭と身体がオーバーフローして口から魂が出てしまっている漫のために紅茶を淹れる。
多恵に淹れてもらった紅茶を飲みながら、漫はふと、疑問に思ったことを聞いてみることにした。
「倉橋先輩の対局、ウ…私何回も見たことあるんですけど、倉橋先輩て、全然デジタルやないですよね?やのに、デジタルの本ばっかり読んでいるのは何か理由があるんですか?」
多恵がいつも愛読してる麻雀本はほとんどがデジタルのものだった。しかし、彼女の麻雀はデジタルに徹していない部分も多い。
多恵はうーん、と少し考えてから
「数字はね、知っておくに越したことはないんよ。この世界ではそこまで役に立つものじゃないけどね……」
(デジタルなんて通用するレベルじゃない相手がたくさんいるからなあ。確率を超えた和了りなんか、こっちに来てから嫌っていうほど見てきたし、俺もたまーにできるし)
世界?と疑問符を浮かべながら漫が紅茶の入ったカップを横の机に置く。
ちなみにあまりにも関西弁に囲まれて多恵もたまにエセ関西弁が出るようになってしまっていた。閑話休題。
「私はね、昔はメンタルがすごい弱かったの。なんでこんなに振り込むんだろうって」
「ええ……対局中ロボットみたいやないですか倉橋先輩……」
今でこそ対局中にほとんど表情を動かすことはない多恵。しかし前世では心が折れそうになることはたくさんあった。
「じゃあどうやって気持ちをキープしてるかっていうとね。例えばほら、これ見てみて」
そう言って多恵は漫の目の前の卓で牌を並べる
{西18⑨①②}
{白七⑤横六}
「この河のリーチにじゃあ、この危険牌の{2}を切らなきゃいけない。これ何%くらい当たると思う?」
「ええ……どやろ、当たる牌なんていっぱいありますし、7%くらいちゃいますか?」
「正解はね、10%なんだ。つまりこの{2}って10回に1回はロンって言われるんだよね。この数字、漫ちゃんはどう思う?」
スジが9本通っているときの無スジ28の放銃率はだいたい10%。捨て牌の状況によってはもう少し値にズレが出るとはいえ、だいたいこの程度だ。
「へえ……意外と当たってまうんやなあ……って」
「そう、私もそう思った。あ、これ意外と当たるんだなって。そしたらね、意外と気持ちの切り替えってやりやすくなるもんよ」
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/3
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク