義務がある
‐side 千歳
さてと、ここは私が昔も通っていた高校だ。第二の人生、悔いのないように学園生活を送らねばな。
「君が新しく入った千歳だね?」
職員室で私を迎え入れたのは、目の下に大きな隈がある女性だ。虚ろな目は、今にも眠りにつきそうである。
『そうです。花咲千歳です』
「ふむ。喋れないのか。資料通りだな・・・ところで」
『なんでしょう?』
私は嫌な予感がした。それは何か裏付けがあるものではなく、ただ自分の経験からくる、不安に近しいそれだった。
「君、精霊だろう?」
全てを見透かしたような目。それが私を貫く。
気付かれてしまっては仕方ない。仕方ない。犠牲はいついかなる時でも発生する、が私の信条だ。ここにいる教師も、また一からやり直せばいいだろう。私のように。
(・・・<夢幻胎動>)
瞬間、私の胸から一本の幼い腕が現れる。その掌からまた腕が・・・と進んでいき、瞬く間に伸びた手は隈のある女性を突き飛ばした。
直後、けたたましいサイレンが鳴り響く。空間震警報だ。私が精霊だと感知されたんだろう。
気付いたら、あの女性がいなかった。
‐side 士道
「精霊か!?」
「うむ。そのようだな」
「十香と折紙は避難していてくれ。精霊は俺が何とかする」
「分かった。でも、無茶はしないで」
高校に設置されている地下シェルターへと非難する列へ二人を促す。
「しかし、このタイミング。嫌な予感がする」
俺は人のいなくなった教室でフラクシナスからの転送を待つ。それはすぐさまやって来た。
転送先は無論、ラタトスクの所持する最新鋭空中艦<フラクシナス>だ。正式にはフラクシナスEXなんだが、まぁ、フラクシナスでいいだろう。
「士道。ようやく来たわね」
朝の様子とは全然違う琴里に慣れたのはいつだろう。黒入リボンの時は司令官モードだ。こっちも可愛らしいツンデレなんだが・・・今は琴里についてじゃない。新たな精霊についてだ。
「今回の精霊はこれよ」
モニタに映し出されたのは、大正浪漫を彷彿とさせる服を着た黒と真紅のグラデーションをした髪の・・・少女だ。そうだ。あの少女だ。花咲千歳だ。ただ、一つだけ明らかに違う点がある。
右腕が非常に大きいのだ。それは指先が地面に届くほどで、手首から先が異常に肥大化している。
「千歳・・・?それに何だ、あの腕は」
「えぇ、本来今日から来禅高校に転入予定だった千歳よ。識別名は<マッドネス>。あの腕は見ればわかるわよ」
モニタに映る千歳の右腕が拡大されていき、ようやっとそれがあんであるかを理解した瞬間、俺の背筋は凍り付いた。心臓から口が飛び出そうになるのを久々に感じだ。
腕だ。あの肥大化した腕を形成しているのは無数の胎児のような小さな腕だ。一本一本は片手で捻れば折れてしまいそうな腕が無数に生えているのだ。
「な、なんだあれ・・・」
「あれが<マッドネス>の天使<夢幻胎動>。無限の手足を出現させられる」
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