ハーメルン
転生チート吹雪さん
『駆逐艦』

 陣形を崩さずに航海するの辛い。
 いや、気合入れて飛び出したのはいいんだけど、出発して一時間、私は交戦とかしていなかった。正確に言えば敵は来てたんだけど私たちの方までは来れなかった。なんでかって言えば、一度に現れる敵の数がごく少数だったのと、空母の皆さんが強かったからである。見敵必殺じゃないが敵の砲戦距離に入る……どころかこちらの位置を察知する前に殲滅してしまったらしい。敵に空母が居たらまた違ったのだろうが、駆逐艦と軽巡くらいしか居なかったから仕方ないね。
 今も警戒は皆で続けているし、私だってチート感覚さん総動員で対潜警戒している。だけど私以外の一部の艦娘も拍子抜けしてしまったようで、ちゃんとやってはいるが集中し切れていない感じがする。もちろん夕雲さんとかは真剣そのものなので、本当に頭が下がる。
 そんな中、私は低速艦に合わせて航行する歯がゆさを味わっていた。訓練所では一人で飛び回ってる事が多かったからあんまり気にしてなかったし、組むとしても皆駆逐艦だったから問題にならなかったんだが、私の最大航行速度より遥かに前進速度が遅いから気を抜くと前に出てしまいそうになるのだ。島風もこんな感覚を味わってたんだろうか。真面目にやってたんだなぁあの娘。
 そんな事を考えていると、私のソナーに敵潜水艦らしき反応があった。おそらくこちらには気づいておらず、離れていくような動きをしている。長門さんへ報告すると、距離と数を求められた。
「数は2、距離は南東約50kmです」
 今の海って生き物がまったく居ないから、障害物がない地形ならけっこう遠くまで聞こえる。なので50キロなら私の聴音機の索敵範囲内なのである。チート能力込みで。長門さんには微妙な顔で近づいて来なければ無視でいいと言われた。まぁそうなるな。私達がここまで移動してきた距離より遠いし。報告を疑うような事は言わない辺りいい人だと思う。
 ちなみに私はレーダーよりもソナーの方が遥かに得意である。潜望鏡とかも見逃さないくらい視力もいいと思うので潜水艦は任せろー。



 偵察に出ていた二式大艇ちゃんと接続した秋津洲さんから報告が入る。現在、目標の島では敵基地と思われる何かの建設が始まっており、陸上には複数の人型が見え、周辺にも複数の深海棲艦が見受けられるとの事だった。二式大艇ちゃんは当然のように発見されて追われたらしいが、飛行速度で並大抵の航空機に後れを取る訳もなく無事に離脱。こちらへ帰投中だ。
「基地か、そうなると恐らく姫級……もしくは鬼級が居るな」
 長門さん曰く、深海棲艦が基地を作る場合大抵そこにリーダー格が陣取っており、個体によってはその基地と同期するような動きでこちらに対応してくると言う。たぶん艦これで基地型とか陸上型とか言われる連中だろう。ちなみに基地無しで動き回る場合もあるらしい……というか、この日本で最初に確認された陸上型って本州まで乗り込んできて艦載機投げまくってた北方棲姫と北方棲妹だったなそういえば。
 さて、我々の取る作戦は単純明快。空母と補給艦と秋津洲さんとその護衛だけ残して他全員で突撃。以上である。作戦って言わねぇなこれ! というのも変色海域の性質上、囮だなんだとかやればやるほど不利になって行くからである。練度が高く完璧な連携をすぐに行える部隊ならいいのだろうが、即席チームの我々が何か難しい事をしようとすると時間のロスで艤装がどんどん傷ついてしまう。しかも通信が物凄い不安定で、妖精さん特製の通信機を使っても安定して話せず、離れれば離れるほど繋がり辛くなるという。この赤い海は性質が悪いったらないのだ。

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