ハーメルン
転生チート吹雪さん
痛い演習

「ああああああぁぁぁ!!!」
 裂帛の気合と共に敵の懐に踏み込む。拳の間合い。低い体勢から、握りしめた連装砲を拳ごと下から上に思い切り振り抜き、白いにやけ面に接射する。だが、発射音が鳴り響いた瞬間には敵は軽く仰け反り、射撃を回避していた。被ったフードだけが動きに付いてこれず、浅く切り裂かれる。この距離でも当たらないのか! 曙は内心で舌を打った。
「右っぽい!」
 無理な体勢からの発射による硬直を狙い、敵が体の後ろに伸びた尾をぐるりと叩きつけてくる。咄嗟に腕で防ぐも、それはしなやかに曙に巻き付いた。一瞬、締め付けによる痛みで呼吸を詰まらせる間に、曙は空中へと放り投げられた。黒塗りの艦載機が水面から離れた駆逐艦に狙いを定める。
「やらせはせん!」
「そこっぽい!」
 その敵機に初雪の弾が直撃し、投げ上げた隙を突いた複数の砲雷撃が敵船に迫る。爆風で水柱が上がった。
 水面を転がり、せき込みながら起き上がった曙は警戒しながら水柱を睨みつける。息が整う間もなく、海面は静まり返った。敵影は無い。
「居ない……!?」
 何処へ行った、と周囲を見渡すが、辺りに居るのは同様に困惑する同艦隊の駆逐艦ばかりである。誰も彼もが中小の損傷を受け、曙自身も小破ではあるが一撃を喰らっている。大破まで行っている者はいないが、何人かはもう一度攻撃を耐えられるかも怪しい。後方ではソナーとレーダーを備えた夕雲が難しい顔をして索敵していた。
「これは……曙さん! 下よ!」
 夕雲の叫びと同時に、曙の足にびちゃりと冷たいものが絡みついた。ぞわりと総毛立ち、反射的に下を向いた曙が見たのは、自分のソックスに食い込む白い指と、赤く光る双眸だった。





「ストップ! ストーーーップなのですー!!」
 傍で監督していた電教官から待ったが掛かってしまったので、曙の足を解放する。海中に引きずり込んであげようと思ったのに残念である。水面に立ち上がり、フードを取って水を払うと、だばぁと大量の海水が落ちる。潜水したから当たり前か。
「今沈めようとしましたよね!? 流石に息が出来ないのは無効化能力でもどうにもならないのです! というか駆逐艦の艤装に水中呼吸の機能は付いてないのに潜ったら駄目なのですー!? 妖精さんもぐったりしてるのです!」
 電教官がこちらに駆け寄りながらまくし立ててくる。見れば私の艤装の上では妖精さんたちがぴゅーぴゅーと天に向かって水を吹き出していた。すまぬ。



 実戦演習二日目、現在第三訓練所では私一名vs駆逐艦隊十二名という糞みたいなハンデ戦が執り行われています。
 しかも私は深海棲艦のコスプレ状態で。
 前日に楠木提督に渡された、にやけ面のお面とフード付き外套と白手袋に白タイツ、それに巨大尻尾のレ級なりきり五点セットを装着した状態で。お面とか目が光るギミック付いてやんの。吹雪型の制服を外すわけにはいかないから本家と違って外套になってるんだろうけど、お面はかなり本物に似ているらしい。あの提督茶目っ気あり過ぎだろ……。
 ちなみに尻尾は普通にしても動かないので錨を中に仕込んで手動で動かしている。さっきも武器として使ったが、実は私の発案ではなく暁教官長の戦術だったりする。昨日二回ほどそれでやられたのでパクらせていただいた。水中から飛び出してくる鎖とか初見で完全回避は無理だったのだ、油断してたつもりはないのだけど、完全に不意を突かれた。経験不足と実力差を痛感したね。私よりあの人がチート持ってた方が絶対有効活用できると思うの。

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