ハーメルン
VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた
切り忘れ 前編

「皆様、本日もご清聴ありがとうございました。次もまた淡雪の降る頃にお会いしましょう」

コメント
:乙
:今日も楽しかったよー!
:淡雪が降る頃って言っても、最近毎日配信やってるよな。頻度しゅごい……
:毎日淡雪降ってるんだろ、察しろ
:淡雪が毎日は優しい異常気象

流れるコメントが一通り止まったところで配信を切る。

「ん?」

どうやらPCの調子が悪く若干固まってしまったようだ。

「もう……」

カチャカチャとクリックを繰り返してみるが、どうも反応しない。
PCにはあまり強くないのでこういう時の正しい対処法が分からない。

「お」

なんかよく分からんがとりあえず配信画面は閉じられたようだ、よかったよかった。

「はぁ」

ため息ともに席を立ち、一人暮らしのアパートの中を歩き冷蔵庫へと向かう。
それと共に完全に頭の中が心音淡雪(こころね あわゆき)から二十歳無職の一般女性、田中雪(たなか ゆき)へと切り替わる。
……そう無職だ。大学生でもないしバイトもしてない生粋のNEET。
……そんな白い目で見ないでください、ちゃんとした理由があるんです。
高卒で入社した会社がまさかの純度100パーセントのブラックで毎日ぼろ雑巾のように酷使される日々、死んだ目で毎日を過ごしていた社会人生活だった。
そんな中唯一心の支えだったのが、最近になって一気に勢力を増し、今では国内トップクラスのVTuber運営会社となった『ライブオン』の華やかなVTuber達だった。
一人ひとりが色の濃すぎる世界を展開するそのカオスな世界に私は一瞬で魅了され、ただでさえ少ない自分の時間を削ってでも日々視聴を続け、次第に生きる希望といっていいほどのめりこんでいった。
そんな精神をすり減らしながらなんとか安い給料で生き繋いでいた私だったが、働きすぎで最早ダークホールのようになった私の光なき目に一点の光を灯すニュースが舞い降りてきた。


《ライブオン 三期生ライバー大募集!!!》


正直無理だと思った。
実際緊張しすぎて面接のとき何をしゃべったのか未だに思い出せない。
だがこれも神のいたずらか、なぜか本当に受かってしまった。
新たに与えられたのは心音淡雪というもう一人の私。
女性としてはなかなかの長身に背中まであるストレートの黒髪、真っ白な肌、そしてなにか奥に得体のしれない『なにか』を感じるハイライトの薄い紫の目。
担当のマネージャーさんからは雪さん本人をモデルにしてイラストレーターさんに書いていただきましたと言われた。とても私はこんな美人ではないと思うのだが……
ちなみに勤めていた会社は三期生に合格してすぐやめた。
流石に早計じゃないかお前と言いたくなる人もいるだろうが、VTuber活動は忙しいからね、仕方ないね。


……嘘ですごめんなさい、これ以上あのブラック環境で働くのはクソ雑魚メンタルの私には無理でした……。


でもこれからはVTuberとして配信いっぱいして人気も出てやがては収益化でうはうはだヒャッハー――!!!!!!
そんな欲丸出しの夢物語が実現できると思っていた時期が私にもありました。
はっきり言うが人気が出ない。まじで出ない。収益化以前の問題である。

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/2

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析