ハーメルン
鴨が鍋に入ってやって来た
第十六話 覚悟未完了!

 シュージの魔法を見てコーテが焦っている時、カモ君は予定調和だと感じていた。
 ゲームシステムでは、シュージやキィに決闘相手を倒させることで得られる経験値が二人に入ればと考えていた。
いくらカモ君によりは低いとはいえ何人も倒せば手に入るだろうと思っていた。こうして強くなっていく二人はいずれ敵国を打ち倒し、ラスボスも撃破してこの国の平和を勝ち取るのだろう。
そして、今決闘している自分も負かされて、彼等の経験値となり、持っているレアアイテム。火のお守りを奪われ、それもまた彼等の糧になるのだろう。
 そんな事を考えていた。覚悟も出来ていた。ルーナのお守りを渡すのは本当に嫌だが、これまでシュージと接してきて分かった。
 こいつが、シュージがこの世界の主人公だと。
 彼の真っ直ぐな性格。この学園では純粋すぎる感性に惹かれて、近い将来、彼の仲間になるクラスメイト。先輩、後輩、冒険者達。果ては王族までが彼の仲間となり難関辛苦を乗り越えてハッピーエンドを迎える。
 さあ、主人公よ。自分を倒して強くなるのだ。カモがネギをしょってくるどころか下ごしらえも終えて鍋に入った状態でやって来たぞ。
 自分が負ける事でクーとルーナも救われる。だからこの決闘が始まる前から負ける覚悟はできていた。出来ていたのに。問題が起きた。

 「にー様ぁああああ!頑張れぇええっ!」

 「コーテ姉様ぁあああ!やっちゃええ!」

 我が愛しき弟妹達がこの決闘の応援に来たことである。負けるのは覚悟していた。だけど、二人の前で負けるのは覚悟できていない。何故なら二人の前では格好いい兄貴でいたいから。
 二人の前でなければ格好悪い自分も我慢できる。決闘に負けることも、コーテに嫌われることも。まあ、多少、いや長期的に落ち込むのだけれど。弟妹達との繋がりはたった一回や二回の失敗で終わるものではない。
 しかし、こうして応援に来てもらった二人の期待に応えられなかったらどうなるか。

 にー様、せっかく僕達応援頑張ったのに。
 にぃに。私達、試合の後、周りの人に馬鹿にされちゃった。
 にー様、あんなに家では威張り散らしていたのに外ではこうなんですね。
 にぃに。コーテ姉様のお父様お母様も同じように馬鹿にされちゃった。
 にー様。実は雑魚だったんですね。幻滅しました。
 にぃにの馬鹿。口だけ魔法使い。ギネの息子。

 ぐふっ。
 思わず血を吐きそうになったカモ君は口元を押さえそうになる。
 こんな長文になりそうな思考をしていながらも、シュージとキィから目を離さずに、クーとルーナの声を拾い続けながら、どうするかを考えていた。

 『シュージに負ける』と『クーとルーナの期待に応える』。
 二つを同時にこなさなければならないのが踏み台兄貴の辛いところだ。
 覚悟はいいか?カモ君は出来ていない。

 しかし、行動を起こさないといけない。
 この決闘。このまま膠着時間が続けば怪しまれる。少しでもいい。じたばたしてでも行動を起こすんだ。じたばたした分、人は進むこともできるのだから。

 「コーテは下がっていてくれ。あの二人の魔法は効果範囲が広い。万が一俺がやられたらあの二人を攻撃にしてくれ」

 「…エミール?」

 とりあえずコーテは後ろに下がってもらう。そうする事で彼女を危険から遠ざけたという自己弁護の材料を増やしておこう。負けた時の言い訳の為に。

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