ハーメルン
鴨が鍋に入ってやって来た
第十八話 そして踏み台の役目は果たされた。

 期待の新入生二人の魔法のぶつかり合い。
 一人はカモ君。エレメンタルマスターという稀有な才能を持って生まれた男子は、その魔法の才能だけでなく体も鍛えて入学してきた彼は、入学前に五対一のほぼ不利な決闘を制した戦闘慣れした少年だった。
 その身体能力だけで二度目の決闘も制してきたかと思えば、殆どの魔法に対して有利を持つレベル2の闇属性の魔法を攻撃として受けても諦めず、ダメージを負いながらもキャンセルしたというガッツを持った少年でもある。
 対するは平民の特別枠で入学してきたシュージ・コウン。火属性の魔法適正を持つ彼は自己申告してきた時はレベル1の魔法使い出会ったが、対戦相手であるカモ君からの薫陶を受けて決闘中という非常事態で成長し、レベル2の魔法を修得した少年だ。
 平民出身という事もあって貴族のクラスメイトに馴染めないでいたが、放課後にはカモ君との模擬戦での魔法の応酬。そして今まさに放たれた炎の竜巻はカモ君との戦いで確実に強くなっている。

 「両者互いの持つ全力をぶつけ合ったぁああああっ!!これは熱い!物理的にも心理的にも熱いぞぉおおお!」

 ミカエリ・ヌ・セーテは自身が作った拡声器を握って実況をしながら、万が一を考えて、自分が建設した観客席に仕込んだ結界を発動させる。
 それは決戦会場となった運動場を囲むかのように張られた透明上のドームは結界となり、カモ君とシュージのぶつかり合いによって生まれた熱波から観客を守る。
 その効果はレベル3までの魔法なら防げるが、その決闘による興奮自体までは防げない。
 二人のぶつかり合いで本人達だけではなくそれを見ていた観客の殆どが手に汗を握ってその勝敗を見守っていた。
 ぶつかり合っている二人をだいぶ離れた場所から見守っているコーテも己にアクアコートの魔法を使ってその熱波に堪えていたが、それでも大量の汗が噴き出るのを抑えきれないでいた。
 そんな彼女から見た光景は自分を呑みこまんとしたキィのグラビティ・プレスとは真逆の光景。炎の赤一色の風景画に一つの小さい青い宝石が輝いているような光景だった。
 炎の竜巻はにわかに輝く青色の光を呑みこみはしたもののそれを消すことは出来ずにいた。まるで嵐の夜の海にぽつりと光る船の光。その炎に呑みこまれまいと足掻くようなその青い光はじりじりと、しかし確実にその竜巻の根元。シュージに向かって進んでいた。

 「あの熱量っ!あれだけの熱波はまるで炎の津波!シュージ選手、本当に初等部一年生なのかぁあっ!結界の効果でこちらまでは届かないはずの熱気を感じさせるそれはまるで王国魔導団の放つ魔法のように力強いファイヤーストームだぁあああっ!
 それを受けてもエミール選手進むのを止めない!まるで航海者のように炎の海を突き進む!彼の歩みはあまり愚鈍!しかし確実にその歩みは決して無駄ではない!じりじりとその矛先をシュージ選手の喉元へと近づけていくぅううう!」

 ミカエリの実況に観客席の声援も同調するかのように声高くなっていく。その時に揺れた彼女の大きな一部分により、一部の男性陣からの声も大きくなる。

 「これだけの決闘なかなかありません!本当に彼等は新入生なのだろうか!このぶつかり合いの勝敗がこの決闘の決着と言っても過言ではないでしょう!」

 「ええ、実にいい。本来決闘とは互いの出し得る全力をぶつけ合う機会でもある。今ではアイテム争奪戦のやりとりの一つだと認知されがちだが、エミール君とシュージ君のやりとりは本来決闘前にやるべきであるのですが、このように全力でぶつかり合う事こそがお互いの成長を促すものです」

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