ハーメルン
鴨が鍋に入ってやって来た
第六話 バッドでディスなコミュニケーション

 カモ君が衛兵と冒険者の皆さんとダンジョンを攻略するのにかかった期間は僅か三日。正確には二日半かかった。残りの半日は衛兵、冒険者への祝勝会に費やした。
 ダンジョンの深度は八階層と比較的出来立ての物で出現するモンスターもゴブリンの他に人間の体に犬の頭をしたコボルト。粘液生命体のスライム。巨大な血吸い蝙蝠などが現れた。
 コボルトと蝙蝠はゴブリン同様に数が多ければ脅威だが、衛兵、冒険者達との連携で殲滅が可能だった。
 厄介だったのがスライムだ。ダンジョンの天井に張り付いている事に気が付かなく、頭上からの急襲に対応が遅れたため、時間はかかるが有機物なら殆ど溶かしてしまうスライムの粘液に数名の怪我人を出したが、無事にダンジョンコアのある部屋までたどり着き破壊に成功した。ダンジョンコアが破壊されたダンジョンは徐々に崩れ落ちていき最後は地面に埋まるのでダンジョンコア破壊後はすぐさま撤収し、その道中で入手したアイテムの分配に移り、祝勝会となった。
 と、そのような報告を息子エミール。カモ君から受け取ったギネは自室で仕事に使う書類から目を離して尋ねた。そのカモ君個人の戦利品の中に使えそうなものはあるかと。
 カモ君は後ろに控えていたルーシーに目で挨拶をして彼女は普段は食事を乗せるカートに置かれたダンジョンで発見したアイテムを持ってきた。
 銀製の短剣。ほつれた部分があるバックラーと呼ばれるモンスターの皮で作られた小さな盾と皮鎧のレザーアーマー。成人用の革靴。銅の延べ棒が数本。
 そして、マジックアイテムの水筒。見た目は瓢箪のような形だがその中には水を十リットルは入れることが出来る上に重さは普通の水筒と変わらないという優れものだ。
 バックラーやレザーアーマー。革靴なのではサイズがまちまちで価値は低いが、銀の短剣と銅の延べ棒は売ればそこそこの金になる。マジックアイテムである水筒はその何倍の価値もあるものだ。本来それは発見者であるカモ君の物であるのだが、ギネはつまらなそうに言ってのけた。

「この小汚い盾と皮鎧。革靴はくれてやる。それで本当にこれだけなのか?」

 労いの言葉なんてなく、まるで残りは自分の物だと言わんばかりの態度。実際に自分の物だと思っている。
 当然だ。自分は今回のダンジョン攻略に出資したのだからその中で得た物も自分の物だと考えているのがギネだ。本来なら冒険者や衛兵達が見つけた物も自分の物だと言いたいがそんな事をすれば冒険者はもちろん衛兵達が不満を爆発させて襲い掛かってくるだろう。カモ君に皮装備を与えたのも不満を解消させる為だ。
 だが、この皮装備はダンジョンで生まれたモンスターたちが身に纏っていたもので持ってくる前に洗ったとはいえ所々に毛や染みみたいなものが付着している。それを頑張ったカモ君に押し付けて不満を解消するとは傲慢だ。寛大な父で嬉しいだろう。と、
 勿論そんな事で喜ぶカモ君ではない。
 銀の短剣よこせやコラー!銅の延べ棒もマジックアイテムも俺のもんじゃー!と、言いたいところだが今回のダンジョン攻略の資金をギネに出してもらう代わりに手に入れたアイテムは全て渡すように言ってきたのだ。
 普通、領主としてダンジョン攻略に資金を出すのは当然の義務だが、ギネは最低限の費用。つまり冒険者などに頼らず衛兵達だけで攻略させようとしていた。
出来立てのダンジョンだから脅威度は低いという見積もりは正しいが、それでも衛兵達のリスクの分散とか考えずに低予算で済ませようとしたところに待ったをかけたのがカモ君。

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