vsダーテング
「やりましたよ、リンゴさん! ヤドンは耐久に優れたポケモンだとセイボリーさんに聞いていたんですが、あのヤドンは特別に速いせいか、足止めさえしっかりすればどうにかなりました!」
「そう。それはよかった……じゃあ、これあげる」
喜色満面で報告に来た彼女に、私は事前に用意しておいた道具セットを放り渡す。当然なから、突然バッグを投げ渡された彼女は動揺するものの、そこは流石の空手有段者。宙に浮く20リットルサイズ(20リットルしか入らないとは言ってない)の四次元バッグを地面に落とすこともなく、見事華麗に受け止めてみせる。
「あの、これは……?」
「昨日、ポケモンに持たせると効果のありそうな道具について話したけれど、それについて使えそうな道具の検証がある程度終わったから、お裾分け」
「あ、ありがとうございます」
上っ面だけ綺麗に誤魔化した言葉に、彼女は素直に感謝の意を告げる。しかしこれは、間違っても善意からの行動ではない。私は検証の結果が正確かを測りたいだけであって、また単なる在庫処分に近くもある。
もしかしたら喜ぶかな、という淡い期待がなかったわけでもないけれど、それを自分で台無しにしてたら世話がない。結局、そんなことさえも私は素直に出来やしない。どこまでも正反対な目の前の彼女とは大違いだ。
「例えば黒帯を締めると、そのポケモンは格闘タイプの技の威力が上昇する。これがプラシーボ効果の一種なのか別の理由かは分からなかったけど、結果的に効果が認められることは私が保証する」
ゲームのようでゲームではないこの世界。その検証は私にとっても急務だった。されどそれはある意味でポケモンを実験台として扱うのと同義で、己がポケモンに偏執的な愛情を抱く私には中々踏ん切りが付かなかったのだ。
しかも結局、試すことができた道具の数はそう多くない。きのみですら努力値下げ実や混乱実はなんか怖いからとノータッチで誤魔化している。更に言うなら、私が調べたのはあくまで「ゲームとの違い」についてであって、その道具が適用される範囲を事細かに調べたわけでもない。
例えば、ぼうごパットならば『すてみタックル』の反動を抑えるのにも役立つ。メンタルハーブであれば一度きりではない代わりに時間制で、ひるみや特性『びびり』『よわき』にも効果がある。くっつきバリやくろいヘドロなんかでダメージを負う状態であれば、そのポケモンは眠ることなど出来なくなる。
他にも色々と、「それは当然だろう」と思うようなものから「いやそれはおかしい」と真顔でツッコミたくなるものまで。本当に本当に、ポケモンとは不思議なことばかりで、調べれば調べるほど頭が痛くなった。
でも不思議と、投げ出す気は起きなかった。何故ならそれは、その試みは、私がおそらく唯一あの子達に見せられる、トレーナーらしい私なのだから。
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