ハーメルン
せっかくバンドリの世界に転生したので全力で百合百合を眺めようと思ったら全員がノンケで絶望しました。
10.星の鼓動と戸山香澄と


 
 
 言葉を失うっていうのを二度目の人生にして初めて体験をしてしまった。


 ここはライブハウスの筈なのに、眼前に広がる光景はどう見ても夜の屋外。(ひら)けた大地には見渡す限りに暗く染まった草の絨毯(じゅうたん)が敷き詰められ、見上げた空には無数に(きらめ)く星々が見える。いったい此処はドコなんだろう?
 小さな光の集まりが天空にひとつの絵画を描き、星から発せられる光の洪水に身を委ねてしまったら、そのまま見知らぬ異世界に迷いこんでしまいそうだった。
 視線を戻すと少し先には、淡く浮かび上がったショートカットの髪を緩やかに揺らしながら、引き込まれているように満天の星空を見上げている小学校低学年くらいの女の子が見える。やけにその姿に不思議な違和感があると思ったら目線の高さがその子と同じくらいな事に気が付いた。
 視線を下げて自分の姿を確認してみると、胸の膨らみもないツルペタのTシャツ姿にミニスカートなのだけれど服のサイズが明らかに小さい。どういう訳か自分も少女の姿になってしまっているみたいだ。


「ゆりおねぇちゃん、おててをはなしたらいやぁ」


 弱々しい声のする方に顔を向けると、自分達よりひとまわり小さな女の子が泣きそうな顔でわたしのシャツを引っ張っていた。いったい自分の身に何が起こっているのか、これが現実ではないと頭では理解が出来ているけれど、目の前に映し出される光景があまりにもリアル過ぎて思考が追いついてくれない。


「あっちゃん、おねぇちゃんの手はここだよ」


 自分の意思とは関係なく口が勝手に言葉を紡ぎ始めてしまう。うん、と返事をした女の子はわたしの手をしっかりと握り締めて、不安そうな表情のまま強張る身体をそっと寄せてきた。
 さっきわたしはこの子を『あっちゃん』と呼んでいた、という事は少し先で星空を見上げている女の子は、まさか……香澄なの?


「ゆりちゃんスゴいよ! お星さまがいっぱいキラキラしてる、こんなの見たことないよ!」


 こちらを向いて叫んだ香澄らしき女の子は、うきゃーと感情の赴くままに叫びながらくるくると舞い踊り始めた。空から降り注ぐスポットライトを浴びながら夜の色に染まった草花のステージで踊る姿は、まるで妖精が楽しそうに遊んでいるような美しさを放っていた。


「かすみちゃん、くらいからあんまりはしゃぐとあぶないよ」


 幼いわたしが注意をしても聞く耳を持ってくれない香澄は、暫く踊り続けた後にパタリと草の絨毯の上に仰向けで倒れてしまう。その様子に慌ててわたしとあっちゃんが香澄の側に近づいて顔を覗き込むと、何事も無かったかのように無邪気にケラケラと笑っていた。


「もうかすみちゃん、ビックリしちゃった」

「あははっ、ごめーん。でもスゴいよ、お星さまが落ちてきそう」

「お星さま、ほんとうにキレイだよね」

「うん、キラキラとしててドキドキする。きっとこのドキドキはお星さまがくれたタカラモノなんだよ」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/5

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析