ハーメルン
TIGHTROPE~Good luck with this worst encounter.
Episode 3 邂逅~わたしの在り処
□□□わたしの“ReSTART”
カーテンの狭間から、初夏の朝日が差し込んでくる。
(もう、朝かぁ……)眩しさに目を瞬かせながら、
狩野
(
かのう
)
エリアは大きく伸びをしてベッドから身を起こした。汗ばんだパジャマ。管理AIが表示する室温は朝だというのに27度。真夏並みの気温だ。少し眉を顰め、表示された時間を見る。
「六時半……か。うん、まだ余裕あるよね」
エリアは大きく伸びをして眠気を払いながら、バスルームの扉を開いた。湿ったパジャマを脱ぎ捨て、洗濯機に放り込む。浴室に入ると天井から適温に調整された温水が降り注ぐのだが、エリアはそれを解除する。火照った肌に心地よい、冷たい水のシャワー。鼻歌交じりに濡れ羽色の髪を掻き上げる。少女らしい瑞々しい白い肌が水滴を弾く。
「……夢なら良かったのにな……」
水滴が
傷
(
・
)
一
(
・
)
つ
(
・
)
な
(
・
)
い
(
・
)
肢体を滴り落ちる。この身体の様に、あの惨劇が無かったことになるのなら。自らの腕で身を抱く様に、エリアは身を震わせる。失ったモノはもう戻らない。そんな事はわかっている。それでも少女はそう願わずにいられなかった。
□
壁に架けられた真新しい制服。品の良いグレイのブレザーに大きめの愛らしいリボン。チェック柄のスカートは長すぎず短すぎず、絶妙な長さ。年頃の少女をときめかせる、秀麗なデザイン。それは名門として知られた学園の高等部のものだった。
鷹月市郊外にある私立
橘花
(
きつか
)
学園。かつては伝統的な女学園だったこの学校も、今では志願制の学徒兵の為の訓練校を兼ね、それを嫌忌されてか年々不足する学生を確保するために男子生徒を受け入れた共学校となって久しい。それでも輩出する学徒兵の練度が全国でトップクラスであるという点は、文武両道の名門の矜持といった所なのかもしれないが。
(わたし、橘花でやっていけるんだろうか……)制服で得た歓喜も現実を前に萎んでしまう。
橘花学園は講義・教練共に通っていた県立の鷲宮高校とは比べ物にならないレベルだと聞く。お世辞にも優等生とはいえず、特別なスキルも持たないエリアにとって、橘花は高根の花と言ってよい学校なのだ。先の戦闘での部隊壊滅による人事であり、然る筋の推薦があっての転入措置だというが、何故わたしが? という思いがエリアの脳裏から離れない。生き残った同級生や先輩には学徒兵としてもっと優秀な人がいたはずなのに。
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