ハーメルン
TIGHTROPE~Good luck with this worst encounter.
Episode 5 起動~Code Rainbow Vol.Ⅱ
□□□Are you really happy with it ?
蜂蜜色の長い髪が揺蕩う。
大きな紺碧の瞳が揺れていた。
「ありがとう、スレイマン卿。最後の我儘を聴いてくれて」
「我が身命は、この国の未来とあなたに捧げると誓いました。お気になさいますな」
静寂に包まれた玉座の間で、主の前に傅く一人の騎士。その身は至る所に傷を負い、元は華美であったであろう白金の鎧も無残に破損している。剥き出しになった皮膚の下に精緻な絡繰りの仕掛けが見える。彼は人ではなかった。
「でも、あなたはその為に――」
「……それを言えば彼女の行いを穢す事となります。今は為すべきことをなさいませ」
主の悲痛な訴えを、感情を抑えた声で遮る騎士。主は俯いたまま、こくりと頷く。顔前を滝のように覆う蜂蜜色の髪の奥で、二筋の雫が流れた。
「さあ、時間がありません――」城内で剣戟の音が聞こえ始めた。近付いて来る。
「わかりました……召喚の儀を始めます」
かぶりを振ると、主は毅然と騎士を見詰める。それを見て騎士は優しく微笑むと、踵を返して駆けだす。戦闘の音は間近まで迫っていた。(どうか、ご無事で。わたしは――)叶わぬ願いと知りながらもそう祈り、彼女は美しい抑揚で召喚の呪文を唱え始める。
この世界を救う新たな騎士と、その主を呼び出す為に――
■□
「何ともテンプレな展開だなあ……」
夕日の差し込む、他に誰もいない放課後の教室。自分の席でボンヤリとゲームに耽っていたCR小隊隊員・
水無瀬
(
みなせ
)
内匠
(
たくみ
)
は、ヘッドセットを外してかぶりを振ると、ぼやく様に呟いた。
――MKこと
機械仕掛けの騎士
(
Machinery Knights
)
。鷹月のゲーム開発部がDDOに続くVRMMOとして、今年の春にサービスを開始した新作ゲームだ。世界観はどちらかと言うとファンタジーモノに近く、そこに滅びゆく古代王国によって呼び出されたプレイヤーと機械の身体を持った騎士が現れる……という展開。プレイヤーは開始時に
使役者
(
マスター
)
である自分と、その相棒となる騎士を作成、二人三脚で世界を旅する事となる。
対戦、自由度の高さに重きを置いたDDOと比べ、こちらはストーリー重視でソロでも楽しめるというのがウリだ。確かにDDOからさらに進化したグラフィックとNPCを始めとした世界の創り込みは素晴らしい。しかし肝心のストーリーは前時代的で、特にNPCが主導する展開においてプレイヤーはそれに助太刀する脇役に過ぎない。
「技術の無駄遣いというか……成功したDDOと同じ方向で作ればいいのに。取って付けた様なストーリーなんて無い方が良いゲームなんじゃないの?」
一緒にやろう、と鷲尾に勧められてアカウントは取ったものの、今まで水無瀬はチュートリアルの段階で投げ出してしまっていた。鷲尾は気に入っているらしいが、それは騎士たちのデザインが女性向けだからなんじゃないのか。そんな風に邪推する。事実、最近になるまでアバターは女性、作成する騎士の性別は男性一択だったのだから。
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