ハーメルン
剣八の墓標
まっくらい



 果てまで見渡せど尚果て知れない——達人として研ぎ澄まされた感覚すら疑われるほどの広大な空間にて、一人の男が座している。

 鞘に納められた大刀を痩躯な、しかし鍛え上げられた肩に立て掛ける男は、これから起こる事柄に対して物憂げな溜息を小さく吐く。
 まるで何者かを待ち受けるかのように虚空を見つめる男の、その瞳の奥に宿る巨大な感情。それは紛れも無い”諦念”、そして——

 灼鉄(やきがね)の如く燃え盛る”使命感”だった。

「……待っていたよ」

 独り言ちると同時、完全に閉ざされた空間へと一筋の光が舞い込んだ。たった一つしかない扉から現れ出でたのは、溢れ出る闘志を隠そうともせず、魔物のような兇相を愉楽に歪めた一人の偉丈夫であった。

 男の知る限り”この世で最も強いであろう怪物”が、唸るように嗤いながら言う。

「あァ? 手前ぇは待ってなんかいねぇだろうが、この日をよ。寧ろ”永遠に来なきゃいい”とさえ思っていた筈だぜ。俺には分かる。……待っていたのは()()()()だとも、な?」

 おや、と思う。人の心など気にも留めない獣のような男だと見做していたが……

「中々どうして、今日は口数が多いじゃないか。『獲物』を前にした貴様らしくもない」

 ゆらりと立ち上がる。この一瞬まで浮かべていた苦笑は掻き消え、音もなく刀を鞘から引き抜いていく。

「わかるさ。この戦いに於いて……貴様と彼女の因縁は完全に終わりを迎える。……僕は『あの人』の代わりだからな。一千年もの呪縛を断ち切るとあっては、さすがの貴様も幾らかの感傷だって覚えるだろう」

 更木(ざらき)

「御託はもう十分だろうが、さっさと始めようぜ!」

 ああ、更木。()()()更木よ。
 貴様から奪い取ったこの名を、再び貴様へと正統に受け渡す時が来た。

「ああ。最強の死神が相手をしてやる」

 此れを以って。
 僕は、生まれて初めて人を救うために剣を振るう事となる。



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