Cut the thin skin and divide it into two.
この日。
明け方の僅かな明るさに目を醒ましたその瞬間から、全ての景色が違って見えるような気がした。
「…………」
布団をどかし、顔を洗い、朝餉をとり。
何故だか、普段から何気なく行なっていた動作らが今日ばかりは新鮮な感覚を伴っていて。その時その時に自分が何をしているのかがハッキリと分かり、改めて自分というものを意識させられた。
「…………」
いつも通りに畳まれている死覇装を着付け、しかし一つだけ今までとは違う”それ”に目を向ける。
隊長羽織。
十三隊の各隊長にのみ着用が許される、死神にとってあまりにも重い意味を持つ羽織。前任の隊長は、隊の異動にあたり既にその立場を辞していた。
それから程無くして、彼は隊長の地位を任命された。
「…………ふぅ」
袖を通したうえで、これは面白いほどに違和感しか感じないなと肩をすくめる。それでも——隊長羽織に”十一”の文字を背負うという事の重責を噛み締めながら、これから起こる事柄を鑑みれば自分でも妙だと思うほど落ち着いた気分で吼翔権十郎は家を発った。
◼️◼️◼️
道を歩けば、目が醒めてから感じていた景色の見え方の違いがより顕著に感じられるように思えた。
「今日は確か十一番隊の……」
「——ああ、まさかあの輔忌が……」
護廷隊が、いや——瀞霊廷中がさざめいている。
二代目『剣八』を決する戦い。まず間違い無く尸魂界の歴史へと永遠に刻まれるであろう出来事におよそ全ての死神たちが多大なる関心を注ぎ込んでいるのが分かる。
「しっ……吼翔隊長が通るぞ……」
(……そうか)
他ならぬ当事者である自分がこの変化を誰よりも鋭敏に感じ取っているというのはある種当然の事かと、ひとり納得して。
すう、と目を閉じた。
視界が暗闇に覆われつつも吼翔の足取りに不安は無い。この程度で歩行に支障が出るほどヤワな鍛え方はしていないし、何より今は——声が聴きたいヤツが居る。
「なあ」
『なんだい?』
一瞬の間も置かずに声が返って来た。
誰に向けてかも判然としないような呟きの意図をやはり汲み取って返事を返してくれるこいつは、これから自分が何を言うのかも正しく理解しているのだろう。
それでも何事かと訊き返したということは——この気持ちを伝えたいのではなく、言いたいからこそ言うのだと。それを分かってくれているからに他ならない。
やはりこいつには敵わんな。そうぼんやり考えながら、他の何よりも信頼を置く自らの相棒に対してその心中を吐露し始める。
「ご免な」
『なにが?』
「オマエを遣って、輔忌を斬ること」
『オレはあの子に情なんて持ってないよ。知ってるでしょ? そんなセッテンも無かったしさ』
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