記憶の断片
突然休日が手に入った私、陽炎。午前中は資料室で適当に読書して過ごすという少し優雅な半日だった。資料室では飲食禁止且つ持ち出し禁止だったため、ティータイムがてらの読書なんてことは出来なかったものの、充実した半日だったと思う。
一緒に付き合ってくれた天城さんとは、ここで少し親しくなった。あちらはあちらで娯楽誌、特に恋愛小説なんてものを読んでいたのが少し意外だったものの、いくつかオススメを教えてもらった。読んでみたが、なかなかにのめり込める。次の休日はこの続きから読んでいきたいと思う。
「いきなり休日になったんだよね」
「そうそう。ちょっとビックリしちゃった」
昼食は沖波と。資料室で本を読んでいたという話をしたら食い付いてきた。天城さんと休日が重なった時は、沖波も一緒に読書に耽けるらしい。
「沖波ってそんな文学少女だったの?」
「引き取られた先のお婆ちゃんがそういうの好きでね。読み漁っちゃった。おかげで視力が酷いことになっちゃったけど」
私の知っている沖波は眼鏡なんてかけてなかった。眼鏡も艦娘となった影響かと思っていたが、天然で目が悪いらしい。
「じゃあ、午後からも資料室?」
「ううん、午後からはまた別のことをするつもり。ここでやれることは知っておきたいしさ。あとは、出来れば孤児院に連絡しようかなって」
まだここに所属して1週間も経っていないのだが、少しホームシックっぽい感じになっている。当然ながら孤児院からこんなに離れたことは無い。毎日のように会い、声を聞いていた。姿が見えないのは仕方ないにしても、電話が出来るならしておきたい。それに手紙を書くのもいいだろう。
「司令官にお願いしたら電話くらいさせてくれるよ。私もちょっと声聞きたいな」
「じゃあ、ご飯食べたらすぐに行こうよ。沖波は午後から何かあるんだよね?」
「うん、午後からは近海哨戒任務があるんだ。領海の見回りのことね」
そうやって自分達が守れる範囲を定期的に監視することで、深海棲艦による突然の侵略を事前に防ぐ。そうやって私や沖波のような被害者をこれ以上増やさないようにしているわけだ。そういうことなら私も早く参加したいものである。海の平和を守るために戦う艦娘のメインの仕事なのだから。
とはいえ、私はまだまだその段階に立てていない。せめて実戦訓練である程度認められるくらいにまで成長しなくては、ただの見回りにすら参加させてもらえないだろう。万が一深海棲艦を発見した時に、即座に戦闘出来なければ、哨戒の意味がない。
「私も早く参加したいよ」
「気持ちはわかるけど焦っちゃダメだよ?」
「うん、大丈夫。さんざん言われてるから」
確実に進むためには焦りは禁物。一歩一歩着実に艦娘の道を歩いていきたい。そのためには、みんなに頼るくらいしなければ。
ご飯の後、沖波と一緒に空城司令にお願いして、孤児院への連絡をさせてもらった。久しぶりに聞く先生や子供達の声で、心が癒されていくのがわかった。沖波が一緒にいると話すと、先生は驚くと同時にとても喜んでいた。連絡出来なくてごめんなさいと平謝りしている沖波が少し面白かった。
この電話、仕方ないとはいえ空城司令としーちゃんの監視下で行なわれた。電話が執務室にしか無いというのもあるが、機密を外に漏らさないようにするためでもある。それならと、ついでにしーちゃんも電話に出てもらった。私を迎えに来てもらった時に子供達に好かれていたため、おっかなびっくり話している姿は微笑ましいものだった。空城司令も温かい笑みをしていた。
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