【初配信】はじめまして!茨木夢美です!!
[茨木ちゃん]
[バラギ]
「バラギ? えー、やだよ可愛くないもん!」
可愛い文字列に紛れる濁点だらけの愛称に反射的に拒否反応が出る。
夢美はこの呼び方だけは定着させないことを固く心に誓った。
「それでね。今後はいろいろやっていきたいなーって思ってて、特にゲーム配信とかすごいやりたいと思ってます。えへへっ」
会話の中身のなさを適当に笑ってごまかす。それでも、コメントは絶えず流れ続けていた。
[かわいい]
[かわいい]
[かわいい]
ごめんな。話に中身なさ過ぎてそれしか感想出てこないよな。
何度目になるかわからない心の中での謝罪を繰り返し、夢美はまた台本を読み進めた。
特に大きなトラブルが起きることもなく配信は順調に進み、質問コーナーへと移った。
「じゃあ、事前に募集してた質問に応えていきます!」
もちろん、質問は事前に読み込んで回答も既に用意してある。
[憧れてるライバーはいる?]
「もちろん、あたしの憧れはまひるちゃん! あっ、みんなも知ってると思うけど、白鳥まひるちゃんのことですよ?」
[真面目でいい子だなぁ]
[清楚だ……]
[にじライブの真面目枠やね]
コメント欄はしっかりと、夢美に騙されている。
「いつも明るくて元気で……辛いときとか、いつだってまひるちゃんの『こんまひ、こんまひ! こんまひー! どうも、白鳥まひるです!』って挨拶に元気もらってたんです」
[似てて草]
[いい話だなー]
「あたしね、元気っ娘なロリ大好きなんですよ!」
一瞬、時間が止まった気がした。
[えっ]
[???]
[ロリ?]
「あっ、違ぇわ。そうじゃない」
[「違ぇわ」]
[あれ?]
[違ぇわwww]
コメント欄も怪訝な様子で彼女の失言を拾った。
「ち、違うよ? 今のは、その、ね?」
[やはり貴様もにじライブだったか]
[焦っててかわいい]
[正体表したね]
[カミングアウト助かる]
「違うから! まひるちゃんは大好きだけど、そういう変な目で見てないから」
[白鳥まひる:呼んだー?]
慌てて先程のロリコン発言を撤回しようとしたところで、憧れの先輩ライバー白鳥まひるが現れた。
「ぎゃ、きゃぁぁぁぁぁ! まひるちゃん!?」
既の所で汚い声が出ることは回避する。夢美は咄嗟に声を抑えた自分を褒めてやりたい気持ちだった。
[すごい声出てて草]
[そりゃ推しがデビュー後の初配信に来たらこうなる]
台本は叫び声を上げたのと同時に吹っ飛んだ。
ずっと前からあなたの配信を見ていました。いつも元気をくれてありがとうございます。あなたに憧れてライバーになりました。これからも応援しています。
伝えたい思いは溢れるが、言葉にすることはできない。出てくるのは、こひゅ、という間抜けな音を立てる空気だけだ。
何とか言葉を紡がなければ――
「えと、その、何ていうか――す、すすす、好きです!」
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