10話 答え
マルオは一花、五月の診断を終えて、また、病院の業務に戻ると言われた。玄関で見送りを行っている中、風太郎だけ一緒に外に出るよう言われた。
「彼女たちは今はゆっくりさせておいてくれ。上杉君。今日はありがとう。長い時間を取らせてすまなかったね」
「いえ、そんな・・・もしよろしければ、泊まってでも・・・」
「・・・上杉君。もっと紳士的な対応をしろ。男性を娘の家に泊まらせるなんてことを親は快く思わないということを」
メンチを切るように威圧され、風太郎自身も自分の発言のまずさに気づき、委縮してしまっている。
「はい・・・すみません」
「・・・四葉君とはうまくやっているのかい?」
「はい、健全なお付き合いを・・・」
「もう二年たつのに、甲斐性無しか君は」
父親から娘との状況を聞かれることがここまで緊張するとは思っても見なかった。とりあえず、無難な答えを出したつもりだったが、お父さんからまさかの返しが来て内心言ううべきか悩んでいた。
「こういう発言は親として・・・いや、道徳的にはどうかと思うがね、四葉君と別れるという選択は君の中ではないのかね?」
「いいえ。それはあり得ません」
「そうか、だが、口で言うのは簡単だ。彼女は今、何もできないと言っても過言ではない。もし、二人が結婚をしたいと考えた時、彼女の仕事の選択肢は少なく、主に君の収入で生活していく。家事についても彼女の出来ることは限られている。それも君がフォローする。日常生活のことも介助していく。そんな状態を毎日続けるということだ。実際、患者の中では事故により身体障害を負ってしまった妻に疲れてしまい見捨てての離婚というのケースも見る。私は今の彼女になってしまったという理由で別れても、何も言わない・・・」
「・・・俺は四葉がいてくれる。それが今、何よりも支えとなっています」
「君は社会を知らなさすぎる・・・後悔のない選択を・・・」
そう言って彼はエレベーターに乗り、そのまま降りて行った。
マルオが言っていることに考えが行かなかった。四葉との将来・・・それを考えた時に、彼女はどう思うのだろうか・・・迷惑なので、とか考えそうだが、何とかして、彼女の考えを改めるように姉妹とも協力して・・・ああ、こう考えてる時点で・・・
「俺の答えは決まってる」
マルオの言っていることは医者の視点からの現実的な意見なのがわかる。それに、心配もしてくれているのだろう。実際に患者さんの中でそのようなことが起こり、心身疲れ切ってしまうのもわかる。実際ニュースで、介助に疲れてしまい、殺人を犯すなどのケースもある。
「おかえりなさーい!お父さんと何話してた・・・えぇ!?」
玄関前で出迎えてくれた車いすの少女。急に彼女を抱きしめたくなった。でもなぜか、彼女と一緒なら、今のことも、未来のことも頑張れる気がする。
「あ、あの風太郎・・・恥ずかしいんだけど・・・」
「悪い。なんとなくな・・・」
少し名残惜しそうに、風太郎が離れて、二人でリビングへ向かう。そして、事情を説明し、今日は帰らせてもらうことになった。
「出来れば、このまま残っててほしいけど、まぁ、あんたに迷惑かけるわけにもいかないしね」
「フータロー。次はいつ来れる?」
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