3話 私はやっぱり・・・
「ごめん・・・フータローのためならって思ったけど・・・」
中野三玖。彼女は専門学校で勉強したいほど料理が好きで夢中なものだった。しかし、彼女の味覚は無くなった。その結果が、今のオムライスの途中である、チキンライス。塩と砂糖の判別もつかない。
だが、一生懸命作ってくれたチキンライスを風太郎はもぐもぐと食べ進めている。
「や、やめて!美味しくない・・・でしょ・・・」
「・・・あ!オムライスだったな。早く卵で包んでくれ」
そう言うが三玖は取り上げるようにチキンライスの皿を持ち出し、その後の調理工程に入ろうとはせず
「・・・!」
意を決したかのようにそれをシンクに捨てた。
「三玖!?」
「ごめん・・・でも、もう・・・」
三玖は限界だった。自分の熱中出来るもの、目指していたこと、それが急に奪われてしまった。そのショックは計り知れないものだろう。しかし、風太郎はあきらめなかった。三玖にはもっと料理を続けてほしい。夢を諦めないでほしい。そんな考えからのとっさの行動だった。
「・・・いただきます」
そう言うとシンクに捨てられて水でべちょべちょになったチキンライスを手づかみで食べだす。
「フータロー!やめてよ!」
泣きながら必死に止めようとするが、お構いなしに続けて行く。
「お願い!もうやめ・・・」
「止めてほしいか!だったら!もう一度俺にオムライスを作れ!!」
「・・・えっ?」
「不安なら俺が調理手順進める都度に味見してやるし、準備ができたら遠慮なく呼んでくれ」
「フー・・・タロー・・・」
そう言って風太郎は三玖の手を引いてキッチンに立たせる。そして三玖も涙を拭いてもう一度、先ほどの手順でチキンライスから作り始める。
「フータロー。塩取って」
「ん」
今度は調味料など風太郎に確認してもらうながら進めて行く。そして一口分小皿に盛りそれを風太郎に渡す。
「はい、味見よろしく」
「そういや・・・三玖が最初に作ってくれたのもオムライスだったよな」
味見をする前にそんなことを風太郎がつぶやいた。
「うん。二乃がまだ反抗期だった時だね」
「急に料理対決って言いだして、勉強できなかったっけ」
「・・・そう言えば、あの時かな」
「あむっ・・・何がだ?」
「・・・始めようって思ったの。それで味はどう?」
「美味い!さっきよりも!」
「・・・フータローって味音痴だよね?」
「そ、そんなことはないぞ!正直に美味いと思ったから・・・」
「あの時の二乃が作ったダッチベイビーと私のぐちゃぐちゃオムライス・・・誰がどう見たって、二乃のほうが美味しそう・・・ううん、美味しいって答えるよ。でも、フータローが私のオムライス美味しいって、全部食べてくれて・・・それが、嬉しくて・・・」
徐々に涙をすする音が聞こえてくる。
「フータローが・・・好みの女性で、りょ、料理上手って・・・いって、頑張って・・・失敗も・・・多かったけど・・・皆にも美味しいって言ってもらえるようになって・・・」
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/2
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク