9話 条件
五月が部屋にこもってからというもの姉妹や風太郎がノックをしても戻ってくることはなかった。食べ物でも釣ってみたが、反応はなし。
「・・・五月」
先ほどの反応は尋常じゃなかった。普段の五月からは考えられない行動だった。それに、最後に何か言っていたようだが・・・そう考えていると玄関のほうから扉の開く音がした。
「ただいま」
その正体は仕事を終えた五つ子の父マルオだった。前日から手術だったらしく、一度風太郎のために家に戻ってた休憩時間以外、ぶっ続けで勤務していてようやく帰宅した。
「おかえり。パパ」
「おかえりなさい」
「おかえりー!」
「お義父さん。おかえりなさい・・・」
そう言って三人の出迎えに表情は変わらないようにも見えたが、少し嬉しそうな雰囲気を感じた。
「・・・上杉君。君にお父さんと言われる筋合いはない。一花君と五月君は?」
「・・・まだあまり、動きたくないみたい」
二乃が現状を伝えるが、少し不安げな表情をする彼女に彼は落ち着いた行動をとる。
「そうか、二乃君。お疲れ様。君の面倒見の良さがあったからこそ、家を任せられた。ありがとう」
そう言って娘にだけ見せるような和やかな表情。以前はそんな表情は見せたこともなかったが、彼も五つ子との関わりで変わっていっているのだろう。
「だ、だから君は止めてって・・・まぁ、どういたしまして・・・」
少し照れた表情をする二乃。
「三玖君。少し、軽食を頂きたい。何か簡単なものでいいから作ってくれないか?」
「うん。わかった。おにぎりかなんかでいい?」
「ああ、よろしく。四葉君。車いすはどうだい?何種類か用意したが、不備や欲しい機能があれば新しいものを用意するが」
「うん。これで大丈夫!ありがとう!」
「そうかい。でも、そればかりではなく、歩行訓練を日に日に行うようにしよう。不恰好になってしまうかもしれないが、歩けるようになるから」
そう言って彼女たちの現状を把握したのか、親というものは恐ろしいとも思った。精神的に追い込まれていそうな二乃には頼りがいがあるとやさしい言葉をかけ、料理をしないと言っていたが、自信を取り戻した直後の三玖に対して料理をお願いしたり、四葉にも気にかけつつ、希望を持たせるように次のステップに取り組む指示をする。そして、テーブルに座ると今度は風太郎を見てきた。
「そして、上杉君。君にアルバイトを提案したいのだが、時間はあるかい?」
「え?」
そう言って取り出してきたのは簡単にまとめられたA4の資料。風太郎にも座るようにそれを読み上げる。
「今回はリハビリテーション・・・つまり、理学療法士、言語聴覚士、作業療法士と言ったところだ。アットホームで楽しい職場。給料は相場の5・・・いや、7倍だ」
「それって国家資格が必要なんじゃ・・・」
確かの上記の三種は国家資格が必要となるもの、資格は愚か、福祉の専門に関しての勉強など触れてこなかった風太郎にとっては戦力にもならないだろう。
「これは決して、私の経営している病院の雇用ではない。家庭教師同様、私との個人的な契約だ。二乃君からの推薦もある。簡単にお手伝いさんという形で構わない少し、考えてもらえないかい?もちろん、君にも予定はあるし、プロでも難しい仕事だ。自身を優先してくれて構わないし、やらないというのであれば、それも構わない」
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